生き辛さを抱えた人を放置した地域づくりはあり得ない

前神有里(地域活性化センターフェロー・人材育成プロデューサー、地域活性化伝道師、地域力創造アドバイザー)

地域を盛り上げPRするような地域づくりには違和感

長年勤めた愛媛県庁を辞め、フリーランスで複数の肩書で仕事をして5年になります。仕事をきかれると、流しのコミュニティナース、翻訳こんにゃく家、胃袋ネットワーカー、まだ名前のない価値を創造する仕事をしていますと答えます。県では行政事務職でしたので、所属がかわる毎に担当業務はかわりましたが、公務はすべてがつながっているので、新たなかかわりしろをつくっていくことで、包括的な取組になっていくことを実感する日々でした。転機になったのは、高齢者虐待との出会いでした。様々な困難が複雑に絡み合い、自分たちではどうしようもなくなったときに虐待は起きます。そこにほどき目をつくることで、人の生きようとする力が状況を変えていく、そんなエンパワーメントの場面にいくつも立ち合いました。救出→分離→修復→再統合をしたとき、厄介な家族にはもうかかわらないという地域と、変化に気づいた自分に何ができるだろうかと考える地域では、再発率が全然違うことに気づいたのが、私と地域づくりとの出会いでした。それまで、地域を盛り上げPRするような地域づくりには違和感を持っていました。地域づくりは余裕のある人のすることで、参画する状況にない人を課題と捉えているという印象を受けていたからです。人は、不安な状況では希望をもつことが困難です。生き辛さを抱えた人を放置した地域づくりはあり得ない。日々の暮らしの中でゆるやかに応援し合う関係性と、いつもの自分の役割から解き放たれる時間、誰かとフラットに対話する時間から生まれるつながり、そんなことが地域づくりの土台なんじゃないかと思います。地域のためにできることを考えるのは難しいですが、自分のしていることが誰かの役に立っている、つまり、自分を生かして地域を活かすなら、地域づくりはぐっと身近になります。

写真右端のみきゃん姿の前神有里

劇的ではない毎日、地味な現場が社会を変える

2010年6月、総務省の人材力活性化研究会の構成員になりました。大学教授や内閣府審議官などが名を連ねる中、県庁の一職員が構成員になったと取材を受けたこともありました。そこから、厚生労働省、内閣官房まち・ひと・ しごと創生本部、農林水産省など国の委員をお引き受けする機会が増えました。そこで、常に大事にしているのは、課題解決ではなく価値創造の思考と、横に結い領域を超え橋を渡していくことです。劇的ではない毎日、地味な現場が社会を変える、キラキラしない地域活性にゆるゆると真剣に取り組んでいきます。

山形県置賜地域×東京都市大学×おやまちプロジェクト(世田谷区尾山台)で開催した米沢市の町内会イベント信夫町ガーデンフェスティバル

Writer:前神有里、(一財)地域活性化センターフェロー・人材育成プロデューサー、地域活性化伝道師、地域力創造アドバイザー、愛媛県伊予市移住サポートセンターいよりん業務推進アドバイザー