人生の転機となった大学院入学

大和田順子

宮城大学後期博士課程に入学

前回の「雁の歌」に続き、2回目は「人生の転機「世界農業遺産」との出会い」を書きます。宮城県大崎市にある蕪栗沼で雁のねぐら入りや飛び立ちを見、蕪栗沼で雁の歌を聴いた私は、“生きものと共生する農業や暮らしの素晴らしさを伝えたい”という気持ちがその後の原動力となっていきました。そして、東日本大震災からの復興を宮城県の沿岸部で「ふゆみずたんぼ」で貢献しようという大崎市のNPO田んぼ初代理事長の岩渕成紀さんの行動に心動かされ、足繁く通うようになりました。また、以前から存じ上げていた宮城大学の風見正三先生(現理事・副学長)から、大学院事業構想学研究科で復興地域づくりに関する研究を勧められました。2014年4月に後期博士課程に入学し、2020年9月の卒業まで6年半、大学院生でした。それまでに著作『ロハスビジネス』(2008年、共著、朝日新書)や『アグリ・コミュニティビジネス』(2011年、単著、学芸出版社)などがあったこともあり、資格審査を経て直接後期課程に入学することができました。

時間が取れず、査読論文を書くことができなかった。

後期博士課程は、初年度は月に1回大学に通い授業を受けましたが、あとは個別に指導教員から指導を受け、査読論文を数本書き、学位論文を書けば卒業できるということでした。「日本計画行政学会」に入会し、毎年開催される大会では研究発表や分科会の企画・実施を行いました。しかし、当時フリーランスで地域活性化の仕事をしていたこともあり、なかなかまとまった時間が取れず、査読論文を書くことができませんでした。その後、地域活性化の仕事でご一緒していた知り合いを通じて「国際P2M学会」を知りました。マネジメント領域の学会でしたので、もともと企業や地域活性化事業でプロジェクトマネジメントに携わっていたことから、同学会で論文を書くことを決意しました。また、同学会では論文の書き方講座を開催していましたし、指導教員はもとより、学会の知り合いの先生や会員から個人的に論文指導をいただきました。

世界農業遺産等専門家会議委員に就任

また、大学院に入学した2014年4月から農林水産省の「世界農業遺産等専門家会議委員」を務めることとなりました。「世界農業遺産(GIAHS)」とは、国連食糧農業機関(FAO)が2002年に開始した制度で、日本には2011年に導入され、11地域が認定されています。各地の申請地域や認定地域への訪問で、ますます日本の農山漁村に惹かれていきました。任期中の6年間に各地の農業遺産の審査や、認定された地域の活性化に関わる経験を積むことができました。

世界農業遺産認証式(2018年4月19日、ローマ)

椎葉村焼畑、午前に火入れ、午後に蕎麦の種をまく

研究テーマを変更

こうした経験をふまえ、研究テーマを東日本大震災からの復興地域づくりから、世界農業遺産とSDGsとの関わりに変えることにしました。最初に書いた論文は、「農業農村工学会」での査読報文「SDGs の視点からみた国内の世界農業遺産認定地域の活性化」(2019年10月)でした。続いて「国際P2M学会」で査読論文「P2M フレームワークを適用した世界農業遺産による農村振興手法の提案 -宮城県大崎地域における自然共生型農業による地域ブランディングの考察」(200年3月)を書きました。あとは学位論文を書くだけです。当時の私は年間150日位は出張していたのですが、新型コロナ感染拡大のため、ほとんどの出張が無くなり、じっくり腰をすえて学位論文を書く時間を確保することができました。

大学教員に応募

ようやく、2020年春に学位論文「SDGs時代における世界農業遺産の役割に関する研究」を完成させ、9月に博士(事業構想学)を取得することができました。同じ頃、同志社大学大学院総合政策科学研究科ソーシャル・イノベーションコースの任期付き教員の公募を知り、応募しました。そして、昨年春からは東京を離れ京都暮らしをしています。大学院だけでなく学部の授業も担当し、教育と研究、そして地域活性化支援も継続して行っています。あっという間に1年が過ぎましたが4月には大和田研究室のゼミ生も増え、彼らが2年間で修士論文を完成させる伴走をし、3年任期を終えることになります。

竹林でのフィールドワーク(2021年11月21日、向日市)

京都での暮らし

京都の暮らしは実に楽しいです。電動付き自転車で大学に通い、近くの北野天満宮や下鴨神社、鴨川などにもしばしばでかけています。京都はお豆腐や湯葉がとても美味しいですが、それは地下水が軟水だから、ということも知りました。そして、学部の授業では「SDGs時代のサステナブルな地域づくり」という授業も担当しています。学生にはぜひ現場に足を運んでもらいたいと思い、知り合いのいる地域に一緒にフィールドワークにでかけました。京都市の隣の向日(むこう)市の竹林、日本農業遺産に認定され、世界農業遺産に申請中の滋賀県、同じく日本農業遺産認定されている福井県の三方五湖などです。コロナ禍でほとんど現場に行ったことの無かった学部生にとって、貴重な体験をさせていただきました。農山漁村の地域の皆さまに感謝し、農山漁村に学ぶ日々はこれからも続きます。

Writer : 大和田順子(地域活性学会員)

宮城大大学院事業構想学研究科 https://www.myu.ac.jp/academics/graduate/plan/