研究の「おもろい」をシェアする会 その名も「金曜ロンブンショー」

山本泰弘(地方公務員、公務員Shiftプロジェクト)

要旨

2022年4月、学会誌に投稿予定の研究内容をプレゼンするオンラインの会を、「金曜ロンブンショー」と題して開きました。各地から20名を超える方々に参加いただき、参加者のみなさんのご協力により対話が連鎖して実りの多い会となりました。この試みについて、「おもろい」というキーワードで語ります。

問題意識

僕は昔から、「学術論文ゆうのはおもろないなあ せっかく書いてもそんな読まれへんやろ」と思ってきました。内容はさておくとしても、フォントからして明朝体で、レイアウトもムダな二段組み、そもそも論文サイトで検索しても本文PDFが存在しないのが多数……と、読むのにたいへんハードルが高い。価値ある内容の研究でも、楽しく理解してもらえるような工夫をしなければ、お蔵入りとなり、世の中に役立つことはなくなってしまうのです。論文の形に限らず、研究の成果をわかりやすくおもしろく伝えることができれば、分野や専門性の枠を超え、より多くの人々が創造的な刺激を受けられるはずです。そうなれば、人類は、人間社会は、もっと学問で進歩できるでしょう。

「おもしろい」→「おもろい」

“自分だけが面白がるのではなく、創造的な発想を練って相手に「それ、おもろいな」と興味を持たせるように伝える[1]”――それが「おもろい」だと、京大総長を務めた山極寿一さんが言っています。思うに、研究者が各自研究して論文を出すのは、自分だけがそこに「おもしろさ」を抱いている状態ではないでしょうか。関心領域を共にする人は論文を探して読んでくれるでしょうが、まだ内に閉じている。そこで、「このテーマは、僕の研究はこんなふうにおもろいんですよ」と売り込むことが大事なんです。まさに世に言う「シェア」・「拡散」・「布教」です。そして地域活性化の領域は、現実社会と直結しているだけに興味を持ってもらえる人の範囲がだいぶ広い。産学官民マスメディア……売り込み先のお客さんがたくさんいるんです。これは、この領域の持つ大きな強みです。なおかつ地域や実務の感覚を知る実務家研究者は、自分のネタをおもろがってもらえる人々を開拓して、ゆくゆくは世の中に影響を与えるインフルエンサーとなれるのではないでしょうか。

開いてみた

その方法として、プレゼンです。学会発表のような格式ばったイメージ[2]ではなく、気軽に視聴できる形で、くだけた言い回しなども織り交ぜて僕の研究のポイントをシンプルに語るオンラインの会を企画しました。題して「金曜ロンブンショー」。まず名前で入りやすさを感じていただけると思います。披露するプレゼンのタイトルも、僕がこの研究論文――テーマは「公務員の兼業等促進の動き」――の結びに言いたかった「公務員の兼業は地域貢献でなければならないのか?」という問題提起を持ってきました。これらの設定に、公務員を中心とした多くの方々に興味を持ってもらえ、Facebook上で「参加予定」20名超、「興味あり」110名超という上々の前評判をいただきました。なお、プレゼンという方法は、僕の中では筑波大学に源流を発します。筑波大では学生・院生たちが自発的に、自分の語りたい話題を5分交代でプレゼンする会「ライトニングトーク(“LT”)」[3]や、学内や街なかで路上パフォーマンスの要領で研究内容をプレゼンする「プレゼンひろば」・「駅前キャンパス」[4]を展開していたのです。前者はYouTube動画[5]が残っており、後者はサイエンスコミュニケーションの実践報告論文[6][7]になっていますので、脚注からぜひご参照あれ。

プレゼン作成

さて、僕はこのイベントを企画し、拡散してから、本番の直前にプレゼン内容を作るという段取りで臨みましたが、研究内容をプレゼンの形に落とし込むというのも有益な知的工程となりました。語れる内容はたくさんあるのですが、せっかく参加してくれたみなさんを延々と語りに付き合わせるわけにはいきません。プレゼンはあくまでシンプルに要点を伝えることを心がけ、導入の後の本題部分を①「研究の背景」、②「問いの設定と検討結果」、③「真の問題提起」に分け、スライド計5枚に収めました。テーマについて全く知らない人の視点を意識しつつ、軸となる説明や文言を画面に配し、本番での語りで関連情報を補うことにしました。そうしてできたプレゼン資料(全体でスライド10枚)がこちらです。

〔プレゼン資料〕https://docs.google.com/presentation/d/1lOGsDbN-LeAj3_PF4ygXjmPRd5M7bahZMzetf87UlqM/edit?usp=sharing

オンライン会議でプレゼン

レビューが始まる

そして迎えた「金曜ロンブンショー」本番では、参加者のみなさんから積極的に発言・コメントいただいたおかげで、対話が盛り上がり、実りの多い会となりました。僕が問題意識を持ってきた「公務員の兼業等促進の動き」について、要点を絞りながらも、研究の背景となる近年の国や自治体の政策を説明し、それに対して参加者の方々が具体例となる自治体HPや自身の体験談を紹介する――といったやり取りができ、テーマに関する認識をみんなで共有していきました。その上で、このテーマについて問いを立てるポイントをどこに定めたのかを解説します。論文として、「問いに対して答えを導く」という型が必要です。今回僕は、「国や自治体による地方公務員の兼業等を促進する政策と、その対象となる地方公務員の実態との間にズレはないか」という問いを設定し、それに既存のアンケート調査結果を用いて答える形を取りました。僕としては(論文の型を満たすために)頭をひねって見つけ出したポイントです。この問いが他の人にも理解可能か、過不足ないものか、試される場となりました。同時に、問いの立て方の一例を示せたとも思います。問いに対する答えを示した上で、さらに僕が着目した「真の問題提起」を語ります。国・自治体は、地域活性化を目的として公務員の兼業等を促進しつつあり、それで現状の障壁が解消される公務員もいる。でもだからといって「地域貢献となる兼業等に限って許可する」ことにしてよいのか?地域貢献とは縁遠い兼業等もあるはずですし、そもそも、ある活動が地域貢献か否かは見方によって分かれるのではないでしょうか。僕のこの指摘をネタとしてみんなで対話し、多方面の展開や発想が得られました。ごく簡単にまとめると――奉仕活動のようなものだけでなく経済活動も立派な地域貢献だとの話、そこからさらに創業を期待する声、そして幅広く兼業等を認めたほうが中長期的に地域の社会・経済・創造性に資するとの話、地域貢献分野を皮切りに多様な兼業等へと広がっていくのではないかという見方――などが交わされました。

知的財産の収穫

ここで得られた新たな視点がまさに「収穫」であり、発表する論文に盛り込んで論を展開するつもりです。対話は、その時間に創造的刺激が生まれるだけでなく、知的財産として残し、活用することができるのです。

結び

こうした顛末を経た「金曜ロンブンショー」は、僕の持ちネタである研究内容を「おもろいやん?」と売り込み、「おもろいやん!」と乗ってくれた方々と対話を起こして、おかげさまでさらにおもろい発想を収穫することができた試みでした。この仕掛けは、言うなれば「『おもろい』のプラットフォームやー!!」と思っています。今のところ料金を課すつもりはありませんので、ぜひみなさんにもこれを適宜アレンジして実践していただければ幸いです。これを読んで「おもろいな」ときたら、それに続くのは「ほな、やってみなはれ」ですえ[8]

山形県内の公務員の有志グループ「公務員Shiftプロジェクト」の仲間

[1] 山極寿一『京大式 おもろい勉強法』、朝日新聞出版、2015年、P.3。

[2] 筆者は、学会発表こそおもろいプレゼンにするべきと考えており、現に「遠方の友人を誘致して『山形日和。ツアー』をやってみた(計10回)」(第4回地域課題解決全国フォーラム)、「~よしや南海 苦熱の地でも~ 古今東西 自由民権《拡散》の戦略」(地域デザイン学会 第1回ユースデモクラシーフォーラム)と題した発表・講演を行っている。興味を持たれた方は著者researchmap(https://researchmap.jp/reso2100)で発表資料をご覧ください。

[3] 一例として下記を示す。

筑波大学 比較文化学類公式ホームページ「比文LT~私の好きなもの~」(2017年8月8日)

http://www.hibun.tsukuba.ac.jp/page/page000437.html

[4] 一例として下記を示す。

「どろどろドローン るんるんルンバ」(筑波大学工学システム学類生有志によるLTでのプレゼン)

https://www.youtube.com/watch?v=4DXIskdvohw

[5] つくば院生ネットワーク 活動内容 http://tgn.official.jp/activity/

[6] 角谷雄哉ほか「筑波大学における「プレゼンひろば」の事例報告 : 総合大学における日常的な異分野コミュニケーション」、北海道大学高等教育推進機構 高等教育研究部 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)『科学技術コミュニケーション』巻 16、Pp.77-89、2014年。

http://hdl.handle.net/2241/00123242

[7] 山本泰弘ほか「筑波研究学園都市における『駅前キャンパス』の実践」、日本サイエンスコミュニケーション協会『サイエンスコミュニケーション』Vol.4、 No.2、Pp.22-29、2015年。

http://hdl.handle.net/2241/00134374

[8] 日刊工業新聞「おもろい大学でおもろい研究を 京都大学の山極寿一総長インタビュー」(2016年8月18日) https://newswitch.jp/p/5779

Writer:山本泰弘(地方公務員、公務員Shiftプロジェクト)