【連載】限界集落は大丈夫だ(地方行政、時事通信社)報告

時事通信社の地方行政誌に5回の連載記事を書くチャンスをいただいた。記事は「限界集落は大丈夫だ」とし、1回5000字を目途に書きました。人口減社会における「第三の道」とは、関係人口か、存在承認か、「適正規模」という生き方、「非競争性」が持つ「競争性」、所得格差の問題は誰も議論しないのか、集落の近未来が見える五島列島、久賀島と宇久島・寺島の5つの記事を公開します(斉藤俊幸)。

(1)人口減社会における「第三の道」とは

筆者は2024年5月に「限界集落の経営学」(学芸出版社)を出版した。コロナ禍に大学院のオンラインで博士号を取得し、この時の研究をベースにまとめたものである。本稿は、本書に基づいて限界集落を巡る議論を紹介するとともに、撤退でも活性化でもない「第三の道」としての具体的な土地利用と地域ビジネスについて、実際の事例を踏まえながら提言するものである。

人口減社会における「第三の道」とはhttps://zofrex.co.jp/chihogyosei/g1.pdf


(2)関係人口か、存在承認か

筆者は2003年度に総務省で創設された「地域再生マネージャー」の1期生として、その後11年間にわたり地域に住み込んだ。なぜ住み込んだのかといえば同年度、麻生太郎総務大臣(当時)の説明資料に「当事者として地域に入り、市町村等に常駐し、長期の招へいを実現し、成功報酬制度を実現する」と書いてあったからだった。バブルが崩壊し、筆者の会社は仕事が枯渇しており、一人親方の会社の社長にとっては、渡りに船であった。

関係人口か、存在承認かhttps://zofrex.co.jp/chihogyosei/g2.pdf


(3)「適正規模」という生き方、「非競争性」が持つ「競争性」

筆者は高度経済成長の中で育ってきた。努力、根性、忍耐を人生の教訓として教わり、20代で起業し、バブル景気も謳おうか 歌した世代だ。日本はその後のバブル崩壊で大きな挫折を味わったが、団塊ジュニアを襲う就職難、低所得、未婚者の増加をひとごとに見ていた。しかし彼ら就職氷河期世代から続く出生率の低下は、高齢となった筆者にも響く事態だ。高度経済成長を生きた「昭和」世代とバブル崩壊以降の世代とでは基本的な思考に相違があるのではないかと考え、多くの若い人に話を聞いた。彼らの特性を示す数値にも注目してきた。我々「昭和」は、彼らを内向きであると言う。海外に出ようとしない。自動車を買わない。しかし、これらの現象はもっと深く考えるべきではないか。畜産業の中にも新しい動きはある。人口減少社会に向かっている日本ではあるが、畜産業という辺境の領域での変化の兆しを見てみよう。

「適正規模」という生き方、「非競争性」が持つ「競争性」https://zofrex.co.jp/chihogyosei/g3.pdf


(4)所得格差の問題は誰も議論しないのか

筆者は戦後の地域活性化事業の中で大きな政策的失敗と言えるものが三つあると考えている。それは①政府はバブル崩壊後に公共事業投資による景気浮揚策を実施したが景気の再浮揚とはならなかったこと②同時期に企業が就職の窓口を一斉に閉じたことにより就職氷河期世代が誕生したが彼らへの救済が遅れたこと③就職氷河期世代の所得が他の世代より相対的に低く、その結果出生率が低下していたことへの察知が遅れたこと──だ。国は、景気回復はあくまで経済成長の延長線上にある公共工事により、景気を刺激するという考えが抜けなかった。これは、公共事業から生まれる収益が経済全体を刺激し、収益が低所得者に流れ落ち、国民全体の利益になるという「トリクルダウン理論」により実施されたものだ。経済不況時に大企業という強者は見えたが、そこに救済すべき弱者は見えなかった。弱者の存在を明らかにする数値はその後に出てきたものであり、弱者救済という発想に目を向ける余裕もなかったのではないだろうか。バブル崩壊当時に公共工事を拡大し、景気回復を目指す国の姿に「われわれは土建国家を目指すのか」といった批判があったことを筆者は覚えている。

所得格差の問題は誰も議論しないのかhttps://zofrex.co.jp/chihogyosei/g4.pdf


(5)集落の近未来が見える五島列島、久賀島と宇久島・寺島

筆者は「限界集落の経営学」(学芸出版社、2024年)を著した。5回にわたり「限界集落は大丈夫だ」の連載の機会を得て限界集落が直面する危機と希望について書いてきた。今回はその最終回である。筆者が集落の近未来として注目しているのは、長崎県の五島列島である。五島列島は離島だけで構成されている五島市(3万4391人)、新上五島町(1万7503人)、小値賀町(2288人)、九州本土の一部に島が属する西海市(2万6275人) と佐世保市(24万3223人)の5市町に分かれている。この中で五島市の二次離島である久賀島と、佐世保市に属する宇久島・寺島の存続の在り方が対極的であり注目している。本連載の最後に久賀島、宇久島・寺島の集落存続の在り方に関して言及する。なおカッコ内は各市町の20(令和2)年国勢調査人口を示した。また長崎県の離島とは、対馬市、壱岐市、五島市、小値賀町、新上五島町の3市2町を指しており、西海市の平島・江えのしま島や、佐世保市の宇久島・寺島は離島に分類されていない。

集落の近未来が見える五島列島、久賀島と宇久島・寺島https://zofrex.co.jp/chihogyosei/g5.pdf