坂本世津夫(愛媛大学社会連携推進機構教授、愛媛大学地域協働センター中予副センター長)
キーワードは、トランスフォーメーション(様式の変更)である。
これまで地域情報化アドバイザー(総務省)、地域活性化伝道師(内閣官房)、一般社団法人日本テレワーク協会アドバイザー、地域産業おこしの会などの活動をとおして、日本の情報化を地域という視点で見直し、地域における「知的能力」と「コミュニケーション能力」を高めることにより、新たな産業集積や地域の活性化(地域の自立)が実現できないか、研究・実践してきた。しかし、近年、様々な仕組みが転換点(限界)を迎え、これから100年サイクルの「大転換」に向かうのではないかと考えている。キーワードは、トランスフォーメーション(様式の変更)である。
DXとは何か?
DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略称である。とは言っても、そもそも「デジタルトランスフォーメーション」とは何なのかが分からないと、「DXの可能性」「デジタル化が地域を変える」と言われても前に進まない。令和2年の12月(今からちょうど2年前)、総務省で地域情報化アドバイザーの幹事会議が開催された。その時の資料の中に、「DX」という文字を初めて発見した。その時は、何を「デラックス」にするのだろうか、いう程度のピントの外れた認識だった。恥ずかしい話であるが、四国にいて中央の(世界の)動きを認識していなかったのである。その時から、「DX」とは何なんなのだろうかと(その本質とは何かを)考え始めたのである。議論の流から、DXのDはデジタル技術であるということは分かったが、果たしてXとは何なのだろうか。Web検索してみて、DXのXは、トランスフォーメーションの略称であることが分かった。次に、トランスフォーメーションとは何なのかを調べると、それは、変形、変化、変質、変換等、主に戦略での用語らしいということが分かった。サッカーやラグビーの試合でよく「フォーメーションを変える」ということを聞くが、まさにそれと同じ意味ではないのかと考えた。それは戦略の変換、転換(地域づくりの手法の転換)である。現在、地域づくりだけではなく、あらゆる分野でフォーメーションを変えることが求められている。それを可能にするのが、現在の進化したデジタル技術である(デジタル技術は今後も進化し続ける)。端的にいえば、DXとは進化したデジタル技術(ICT技術)を浸透させると同時に、今までにないフォーメーション(隊形・形態・様式)を生み出すことで地域社会やビジネスや教育や産業など、あらゆるものを変革させることではないかと考えている。人々の生活をより良いものへと変革させること、これこそがDXである。それは単純な「変革」ではなく、デジタル技術による破壊的な変革、既存の仕組みをまったく変えてしまい、既存の価値観や枠組みすら根底から覆すような革新的な変革、まさにイノベーションである。それを実現するための、新たな政策(地域づくり為の環境整備、デジタル環境の整備)が、以下の「自治体DX推進計画」(基盤づくり)、デジタル田園都市国家構想(基本方針を令和4年6月7日に閣議決定)である。令和5年度の具体的な施策につなげる「経済財政運営と改革の基本方針2022」(令和4年6月7日閣議決定)も参考にしてもらいたい。
自治体DX推進計画
令和2年12月政府において「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」が決定され、目指すべきデジタル社会のビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会 ~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」が示された。また、令和4年6月、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定され、このビジョンが目指すべきデジタル社会のビジョンとして改めて位置づけられた。DXを実現するための、まさにフォーメーションの部分である。自治体のDXの推進については、「自治体DX推進手順書」が示され、各自治体はそれにもとづき「自治体DX推進計画」を策定している。詳細については、総務省のホームページにある「自治体におけるDX推進の意義」をご覧いただきたい。
デジタル田園都市国家構想とは
「様々な社会課題に直面する地方にこそ、テレワークや遠隔教育・遠隔医療など新たなデジタル技術を活用するニーズがあることに鑑み、デジタル技術の活用によって、地域の個性を活かしながら地方の社会課題の解決、魅力向上のブレークスルーを実現し、地方活性化を加速する。これがデジタル田園都市国家構想の意義である。デジタル技術の進展を背景に、地方に住み、働きながら都会に匹敵する情報やサービスを利用できるようになるなど、デジタル技術を効果的に活用して、地方の「不便・不安・不利」の言わば3つの「不」を解消し、魅力を高めることができる。このようにデジタル化の恩恵を日本の津々浦々にまで広げ、根付かせるための取組を強力に推進することにより、地方活性化の取組を一層高度かつ効率的に進めることが可能となる。また、地方へのアクセス利便性向上に資する高速かつ安定的な交通インフラの整備も併せて進め、地方活性化を図る。」「心ゆたかな暮らし」(Well-Being)と「持続可能な環境・社会・経済」(Sustainability)を実現していく構想である。具体的な内容については、「デジタル田園都市国家構想基本方針(令和4年6月7日閣議決定)」をご覧いただきたい。
今後、如何にDXを進めるか
以上で述べたように、DXとはデジタル技術の活用により新たな仕組み(社会システム)を作ることである。その為には、まず人材が必要である。この人材であるが、従来の専門知識(デジタル知識)を持つだけではなく、新たな仕組みを考えることができる人材でなければならない。一言でいえば、「スーパージェネラリスト」である。分野横断型の人材であると同時に、時代を見抜くことができる人材、その必要条件は、「複数」の分野におけるスペシャリストとしての能力を持つことである。従来、日本では単一分野でのスペシャリスト性だけが重視されてきたために、現在のような複雑な社会問題(社会的課題)に対応することができなくなっている。複数の分野のスペシャリスト性を持つと同時に、それらをマネージメント(自己管理)していく能力が求められているのである(分野横断型の人材)。DX人材を、単なるデジタル人材の活用(育成)ととらえると、変革できないだろうと考えている。
最後に
四国はデジタル田園都市化を目指して様式を変えないといけない。その為には、DXをリードする人材が必要である。またメタバースやデジタルツイン等、新しい技術を見据えたデータ蓄積や活用が必須である。プログラミングの世界では、「プログラム=アルゴリズム+データ構造」と言われるが、最適なプログラム(施策)の為には、それを実現するアルゴリズム(課題解決方法)とデータ構造(資源の蓄積、体系化)が必要である。
例えば、観光については(コロナ禍により)外国人の流入が困難な中で、外貨収入を上げるための新しい仕組みを作る必要がある(博物館のデジタル化や観光のデジタル化、投げ銭などの仕組み)。これから、地域の文化や産業、教育など様々な分野に横串をさして、今までにない仕組みを作ることが重要である。行政においても、「誰一人取り残さない」仕組みを作ることである。こういう取り組みを進める中から、また新たな技術が生まれるのである。
Writer:坂本世津夫(愛媛大学社会連携推進機構教授、愛媛大学地域協働センター中予副センター長)