野中郁次郎著「経営管理」から仮説、先行研究を考える

誰が読むべき本なのか

野中郁次郎著「経営管理」は、先行研究が体系的に整理された良書です。博論で引用する先行研究を探すために有効です。しかし、(大学院博士課程の経営学の授業の中で紹介され手に入れたものの)実に難解で、私は読む気になりませんでした。おそらく経営者はこの本を読んでも知識が増えるばかりで、実際の経営の指南にはなりません。大学生が読んでも、起業に向けた心構えにならないでしょう。大学院の講義で聴いていても、目的意識や着眼点を持って授業に臨まないのであれば、無駄な時間を過ごすばかりです。この本は、博士論文を書くことを前提にその現象の構造を思い浮かべながら、仮説と先行研究を探るという目的なくして、理解できるものではありません。このつながりを那須先生に教えていただき、読みなおしました。以下参考文献として野中郁次郎著「経営管理」を抜粋し、論文へ反映する流れを書きます。

クール・アプローチ(構造アプローチ)

本書の第1章は組織構造の理解であり、クール・アプローチ―構造アプローチの説明から始まる。構造アプローチでは、最適な組織とは、一般的には組織における分業、機能配分、コミュニケーションのパターンであり、組織の成員の行動をコントロールし、組織内のパワー行使、意思決定、組織活動実行の枠組みを作り出すことと規定している。構造アプローチは、組織の目標達成に対する個人的で人間的なウォームアプローチというよりは、全体的で構造的なクール・アプローチといえる。個人の態度や個人と個人との間のセンチメンタルな人間関係そのものには関心がなく、メカニズムの管理が中心となる。

集権的職能別組織(野中,経営管理,p.47)

ウォーム・アプローチ(動機づけアプローチ)

第2章は動機づけアプローチの説明である。構造アプローチが組織全体を分析単位とするのに対して、動機づけアプローチは、分析の重点を個人と小集団におき、人間の態度や行動の詳細な分析を行うものである。人間行動の分析には、人間の態度の分析が不可欠となる。上司が部下に影響力を行使する場合、部下の行動は上司からの命令というインプットを受けて、即時行動というアウトプットを生みだす生みだすわけではない。その間に部下の好意的あるいは非好意的態度が媒介され、それからアウトプットが生みだされる。動機づけアプローチは組織における個人をどうみるかについての人間観がその基礎になければならない。人間行動の説明には、動機づけアプローチのように人間の欲求や態度の分析が必須となる。人間そのものに対する強い愛情で裏打ちされることが多い。このような観点から、動機づけアプローチは、あたたかいアプローチ、つまりウォーム・アプローチといえる。このきっかけを与えたのが、ホーソン工場実験であった。

【ホーソン工場実験】 ホーソン実験が行われるまで、人間関係や感情は生産性と関連性がないと考えられていた。しかし、ホーソン実験によってその考えは覆り、「外部環境ではなく、人間関係が生産性に影響する」という結論が得られたのだ。その結果、これまでの科学的管理法から、人間関係を重視した管理法が考えられるようになった(抜粋)。

https://www.hrbrain.jp/media/human-resources-management/hawthorne-experiments

草刈りグループの働く構造に着目しヒアリングした

岡山県美作市の水柿君は移住した若者たちを組織化し、毎朝2時間の棚田の草刈り作業を進めています。草刈りは、田んぼと景観上必要なところに実施し、棚田の耕作放棄地を解消しました。草刈りグループはそれぞれが副業を持っています。この事例は、私の博論の大きな手掛かりを与えてくれました。水柿君はリーダーではなく、活動のマネージャーとしての役割をこなしています。水柿君は、『毎回、移住者が顔合わせることが重要である。最初は、担当田んぼ制としたが、水田ごとに面積のバラツキや草の刈りやすさが異なるため、不公平が生まれる。みんなで話し合い、均等にみんなで全農地を回ろうと管理方法を変えた。草刈りの最後10分で写真を撮影する。また話し合うこともある』と述べています。また、『棚田の草刈りは、みためにもわかりやすい成果が出る。地域の長老に認められる。移住者がよくやっていると思われることは、地域の長老世代が移住者を理解するために効果的である。おじいさんたちは我々の作業に納得して、あれも使えこれも使えと道具を貸してくれる。コミュニケーション上もタテもヨコもつながることができる。稼ぎと直結しなくてもやれているのは、棚田を維持しているというプライドである。集落の人たちに認められたい、人としてここにいることを認めてほしい、じいちゃんからほめられたといったことを喜びに変えられると言った働くモチベーションを持っていることが大きいと思う』とも述べています。ここには新しい働き方や地域ビジネスの萌芽があります。私はクールアプローチで出てくる集権的職能別組織を意識して、ウォームアプローチの長老・後継者共存モデルを描きました。

毎朝2時間の棚田の草刈りを行う若い移住者たち

長老・後継者共存モデルはウォーム・アプローチでしょ

岡山県美作市の長老・後継者共存モデル(筆者作成)

副業は医者、宿泊所経営、キャンプ場経営、カフェ経営、木工職人、薬草コーディネーター、デザイナー、狩猟(食肉処理場勤務)、コンビニバイト、協力隊員

そして、長老・後継者共存モデルから仮説を考えた

1 集落維持を図るためには、地域ビジネス、存在承認、リーダー、マネージャー、後継者が必要である。また、若い移住者(後継者)の非競争性と彼らが生産する社会的価値により集落は維持できる。

2 補助金依存の体質が高まるばかりであり、自立とはほど遠い地域が多数存在する中で、非競争な姿勢から生まれる生き方の集積は、 地域の自立を誘導することができる。これを 競争、非競争の視点で説明することで、新たな地域活性化政策の方向性を明らかにすることができる。

仮説を論証できそうな先行研究を見つけ(実は那須先生に紹介してもらって)、長老・後継者共存モデルを意識して図として描いた

組織間関係論では組織間コミュニケーションを「二つ以上の組織間の情報交換および意味形成のプロセスと定義している。それが二つ以上の組織間の情報交換・授受を含んでいる。組織間コミュニケーションは二つ以上の組織間で意味が伝えられ、解釈され、新たな意味を形成・共有してゆくプロセスである。岡山県美作市の移住者の活動が、うわさとして伝搬し、解釈され、地区の長老の承認を得る契機となっている。コミュニケーションは、ある組織が他組織に対して「意図」を持って働きかけることである。

組織間コミュニケーションモデル(筆者作成)

岡山県美作市の長老・後継者共存モデルの方がより現場に近い