【地域活性学】アンラーニングするのは誰か

地域活性化センターフェロー会議

地域活性化センターフェロー会議に参加しました。1か月に1回、地域活性化センターの前神有里さん(地域活性学会正会員)が進行を務めるオンライン会議です。今回はアンラーニング(unーlearning)をテーマに話し合いました。こうした議論を地域活性学を考えるときに行ってみてはと思います。前神さん、やりましょうよ。参考のため、今回会議で私が発言した趣旨を以下にまとめます(斉藤)。

地域活性化センターフェロー https://www.jcrd.jp/about/cat5029/

知識や技能が通用しなくなっている

教育ジャーナリストの後藤健夫氏は、アンラーニングとは、いままで持っていた知識や技能が習慣化して当たり前のものとして思考や行動が「癖」になってしまっているものの、実際にはそれらの知識や技能が通用しなくなっていることがあります。そうした「古いものを一旦忘れて、新しい状況での思考や行動を試みる」ことがアンラーニングであると説明しています。フェロー会議では世代論は少し危険性があるとの指摘がフェローからありましたが、敢えて世代論で言うと、我々が住んでいる日本には生き方、考え方に関する明らかな相違がある2つのグループが存在すると私は考えています。それは、高度経済成長をひたすら走り続けた昭和生まれの世代(以下昭和世代という)と、バブル崩壊後に就職ができなかったいわゆる就職氷河期世代以降の若者たちの世代の相違であり、それが断裂を生んでいます。昭和世代が親から言われてきた「いい学校に入り、いい会社に入り、終身雇用によって最後まで一つの会社に勤める」を是とした日本型雇用モデルが、バブル崩壊により文字通り崩壊したことが、この断裂の要因です。就職氷河期世代は薄いレイヤーであるものの、みな同じ経済的なショックを同時期に共有しており、変化せざるを得なかった人たちが多く存在します。この困難な状況を起点に明らかに昭和世代とは違ったものの見方をする若者が生まれていることに私は着目し、彼らが持つ特徴を博論の研究テーマとしました。博論の中では、バブル崩壊後に生まれた世代をZ世代と称するのではなく、非競争世代と称することにしました。Z世代であると、デジタルネイティブさが強調されるあまり、彼らが持つ非競争性があぶり出せないと考えたためです。そして、競争や成長・拡大意識の高い昭和世代がムラ社会の長老として君臨する年齢となり、地域に住む若い非競争世代はひたすら沈黙し、断裂はさらに広がっている実態があるのではないかと研究を進めました。

後藤健夫、教育「大人たちのアンラーニング」のススメ第1回『なぜ、教育にアンラーニングが求められているのか』2022年6月、ベネッセ https://view-next.benesse.jp/innovation/page/article10731/

絶望的な組織間関係

この2つのグループの絶望的な関係を、若き研究者の斉藤幸平氏は脱成長やコミュニズムを解決策として主張し、成田悠輔氏は、自治・政治はAIに任せろ、昭和世代は引退せよといい放っています。昭和世代に属する私としては、昭和世代にアンラーニングの時間を与えてほしいと思うのです。それが私が博士課程に入り、非競争世代を研究した大きな理由です。この断裂や非競争世代が昭和世代に対して感じている違和感を直接私に伝えてくれたのが前神さんであり、これらがなぜ剥離しているのかという博論のリサーチクエスチョンになりました。会議に参加した前神さんは、違う人と意見交換していくことで違う価値観と出会い、違和感にも共感にも出会う、そういうことを経験する中で新しい関係性も生まれてくる。価値を交換し合うには異質との出会いで気づくことが大事です。もう年齢や立場や経験が上の人から下の人へ教える時代でもなく、ともに未来をつくっていこう!ですねとSNS上でフォローしてくれました。しかし、私たちの地域活性化の現場である集落で、果たして長老たちは、非競争世代の存在を認め、対話をはじめてくれるのか甚だ疑問です。長老はムラ社会にはびこる家父長制度に対する問題点を認識し、アンラーニングして、ムラ組織を再構築することができるのでしょうか。長老にはアンラーニングしろよと私は叫びたいです。しかし、ムラ社会が問題だと指摘する首長も自治体職員も外部の研究者たちも見当たらず、長老世代のアンラーニングはできないだろうけどね。ここが地域活性化のアンラーニングのポイントと思います。以上会議での発言をまとめてみました(斉藤)。

(参考)池田暮らしの七か条

福井県池田町の広報誌は区⾧会名で、移住者への「池田暮らしの七か条」を発表しました。「都会風を吹かさないよう」「品定めされることは自然」といった表現があり、移住者らから「広報誌の表現として不適切だ」と批判が上がっていると新聞が伝えています。人口減少で移住者を受け入れることを政策とする市町村は多いです。しかし、集落にあっては必ずしもウェルカムではありません。長老組織と移住者はどのような関係であることが求められるのでしょうか。

「池田暮らしの七か条」池田町区⾧会

私達は、池田町の風土や人々に好感をもって移り住んでくれる方々を出迎えたいと思っています。しかし、池田町への思い込みや雰囲気だけで移り住まわれることには不安も感じています。移住者、地元民双方が「知らない、聞いてない」「こんなはずではなかった」などによる後悔や誤解からのトラブルを防ぎたいと思っています。そこで、⾧く池田町で暮らし続けて頂くための心得や条件を「池田暮らしの七か条」として作成しました。ご理解をお願いいたします。

第1条 集落の一員であること、池田町民であることを自覚してください。

○総人口の少ない池田町ではありますが、私たちは33 の集落において相互扶助を土台に安全で豊かな共同社会を目指しています。

第2条 参加、出役を求められる地域行事の多さとともに、都市にはなかった面倒さの存在を自覚し協力してください。

○池田町の風景や生活環境の保全、祭りなどの文化の保存は、集落毎に行われる共同作業や集落独自の活動によって支えられています。共同して暮らす場を守るためにも参加協力ください。

○草刈り機は必需品です、回を重ね使い込むことで技術上達が図れます。

○このことを「面倒だ」「うっとうしい」と思う方は、池田暮らしは難しいです。

第3条 集落は小さな共同社会であり、支え合いの多くの習慣があることを理解してください。

○生活の基盤は集落であり、長い年月に渡って様々な行事や集まりを通して暮らしを支えてきました。

第4条 今までの自己価値観を押し付けないこと。また都会暮らしを地域に押し付けないよう心掛けてください。

○集落での生活は、ご近所などとの密な暮らしの日々があります。都市では見られなかったルールや仕組みもありますが、皆で折り合いを付けながら培ってきたものです。

○これまでの都市暮らしと違うからといって都会風を吹かさないよう心掛けてください。

第5条 プライバシーが無いと感じるお節介があること、また多くの人々の注目と品定めがなされていることを自覚してください。

○どのような地域でも、共同体の中に初顔の方が入ってくれば不安に感じるものであり「どんな人か、何をする人か、どうして池田に」と品定めされることは自然です。

○干渉、お節介と思われるかも知れませんが、仲間入りへの愛情表現とご理解ください。

第6条 集落や地域においての、濃い人間関係を積極的に楽しむ姿勢を持ってください。

○静かでのどかな池田町ならではの面白さとして、ご近所や色々な出会いの中での会話を楽しんでください。

第7条 時として自然は脅威となることを自覚してください。特に大雪は暮らしに多大な影響を与えることから、ご近所の助け合いを心掛けてください。

○池田町は2004 年の福井豪雨災害で大きな被害を受けて以来、集落防災隊長を設置し地域防災力を高める取り組みを推進しています。

○また、池田町には「雪で争うな、春になれば恨みだけが残る」という教えがあります。積雪時、大雪時での譲り合い、助け合いを心掛けてください。

以上、共同する社会の豊かさの充実のため、ご理解ご協力ください。

2022 年(令和4 年12 月)

池田町区⾧会

 

傷ついた人を切り捨てる社会から傷ついた人が心を癒すことができる社会へ

こういうことを話すことって大事ですね。斉藤さんが言われる長老世代のアンラーニングの難しさの裏には、長い間男性優位がデフォルトの社会があり、そうした社会に対する現状維持を意識的にも無意識のうちにも望むあまりに想像力欠乏症に陥っている状態もあると思います。この壁をもう嫌というほど経験してきたし、その中でタテ型社会を生き残り上がっていこうとすると、スカートをはいたおじさんも生まれてきました。いわゆる名誉男性です。傷ついた人を切り捨てる社会から傷ついた人が心を癒すことができる社会へ変わっていけるか、そこにもつながると思っています。またいろいろお話しましょう(前神)。

京都府南丹市天引の女性たちの発表から(国土交通省)

地域活性学に関するご意見をお待ちします。

Writer:斉藤俊幸