【出版】少人数で生き抜く地域をつくる(農村たたみ反対論)

「少人数で生き抜く地域をつくる」(学芸出版社、2023年)は序章で地域は継承できるのかを問うています。本文は、なりわいを立て直す、空き家・空き地を継承する、地域の伝統・教育・福祉を守る、自治とネットワークの仕組みをつくるで構成され、終章でどのように少人数で生き抜くのかを問題提起しています。序章の地域は継承できるのか(佐久間康富)が本書の立ち位置を明らかにしています。抜き書きします。

人口減少に対するこれまでの取組み

  • どの自治体も子育て層の誘致に取り組み、総合戦略、立地適正化計画のターゲットにおいても、子育て層の獲得がうたわれている。人口減少に歯止めをかけようとする施策は否定されないが、果たして人口増は施策目標であり続けるのか。

少人数社会の可能性

  • おおよそ人口推計通りに減少した人口構成の地域社会を「少人数社会」と呼びたい。少人数社会において、本来に向けた目標はどのような像が描かれるのであろうか。地域の担い手と空間管理、教育や医療といった人口規模で維持されるサービスを想定すると、人口増加を目指すことは効果的であり続けるだろう。しかしながら、担い手や地域資源に余力がない少人数の地域社会で、避けられるべきは人口構成の偏りではないだろうか。
  • 宮口侗廸は著書『過疎に打ち克つ―先進的な少数社会を目指して』(原書房、2020年)のなかで、「過去の人口が多かった時代を再現しようなどとは考えず、少数の人間がその地域で、どのようなきちんとした生産と生活のシステムをつくることができるかを、原点から洗い直すことである」と指摘し、「時代にふさわしい地域の価値を内発的につくりだし、地域に上乗せする作業」が地域づくりであるとしている。

多様な担い手との「新たな価値創造」

  • 田中輝美「関係人口の社会学―人口減少時代の地域再生」(大阪大学出版、2021年)によって「特定の地域に継続的に関心を持ち、関わるよそもの」とされている「関係人口」や、徳野貞雄「コンピュータに頼らない『T型集落点検』のすすめ」(現代農業11月号、2008年)に見るように、都市住民、地域外住民、他出した子世帯が、田畑・山林での生産、集落空間の適正管理の担い手として期待できる。そして具体に身体を動かす担い手としてだけでなく、小田切徳美「新しい地域をつくる―持続的農村発展論」(岩波新書、2022年)によって「交流の鏡」と称されているように、農村の人々が都市住民との「交流」によって、「都市住民が『鏡』となり、地元の人々が地域の価値を都市住民の目を通じて見つめ直す効果を持つ」役割が期待されている。また、安藤光義、フィリップ・ロウ「英国農村における新たな知の地平の軌跡」(農林統計出版、2012年)の「ネオ内発的発展論」に見るように「地方と外部が相互に関係し」「広範囲に及ぶプロセス、資源、行動を自分たちのためにハンドリングできるような地方自らが能力をいかに高めてゆくかである」が重要として、農山村においても、地域外部との主体や資源との関係を持ちながら、地域自らが意思決定、ハンドリングすることの重要性が指摘されている。

期待される次世代への継承

  • 京都市南丹市での取り組みから広がった『「集落の教科書」のつくり方』(田畑昇悟、農山漁村文化協会、2023年)の事例からも次世代への継承の可能性をうかがい知ることができる。「集落の教科書」は移住者に向けて地域の良いところも悪いことも伝えたい」と、集落の暮らしを紹介する冊子づくりの取り組みである。
  • これまでの地域で引き継がれてきたもの、地域社会のルーツや暮らしを含めた生活文化、これらの舞台となる住まいや田畑、山林、その結果として表れる景観や地域らしさを継承しながら、少人数社会にあわせて地域社会を組み替え、次世代への継承の仕組みをつくる。それによって将来に向けた地域の持続性を展望する、こうした少人数社会における次世代への継承の可能性がかたちづくられ始めている。