保育園留学で地域との新しい関係づくり – 厚沢部町と美濃市の事例から学ぶ(宮外真理子)

宮外真理子

保育園留学とは?

「保育園留学」は、家族が1〜3週間の短期滞在を通じて地域と関わりを持つプログラムです。子どもは地域の保育園に通い、親はコワーキングスペースでテレワークをして過ごします。保育園、住宅、コワーキングスペース、地域とつながる体験・イベントなどを通して、家族と地域がつながることができます。今回は、北海道厚沢部町と岐阜県美濃市で実施された保育園留学の事例を通じて、地域活性化の新しい形について考察します。

事例1:北海道厚沢部町

北海道厚沢部町認定こども園「はぜる」

厚沢部町では、認定こども園「はぜる」を中心に、親子を受け入れ、保育園留学プログラムを運営しています。親子が滞在する「ちょっと暮らし住宅」はもともと移住促進用の施設として建設されましたが、保育園留学の開始により年間の稼働率が大幅に向上しました。例えば、地域おこし協力隊が行う郷土料理教室や地元の農家と共に行う農作物の収穫体験など、多様な交流の場が提供されており、保育園留学をきっかけに親子で地域と深く関わることができるよう工夫されています。

事例2:岐阜県美濃市

岐阜県美濃市シェアオフィス WASITA MINO

美濃市では、2021年から保育園留学がスタートしました。美濃市認定保育園「美濃保育園」を中心に、滞在場所としては新たに整備された民泊やリノベーションされた古民家が利用されています。また、親たちは地域のシェアオフィス「WASITA MINO」で働くことができ、そこで地元の住民や他のテレワーカーとの交流を深めています。このように、子どもと親がそれぞれ別々のコミュニティで過ごすことで、地域全体に広がりを持った新しい関係づくりが進んでいます。

保育園留学がもたらす効果

美濃市で泥遊びをする子どもたち

保育園留学の最大の特徴は、親子それぞれが地域と異なる形で関わることです。子どもたちは保育園で地域の子どもたちと日常生活を共にし、親は地域のワークスペースや宿泊施設で日常を過ごすことにより、双方がそれぞれの立場で地域に新しい風を吹き込みます。これは、単なる観光ではなく、地域での暮らしを体験することによって、地域との「深い関係性」を築くことにつながります。特に厚沢部町や美濃市では、保育園留学を経験した家族がその後もふるさと納税を通じた地域支援を行ったり、再び訪問するなど、継続的な関係を構築している事例も見られます。

今後の展望

北海道厚沢部町のお米や野菜

保育園留学は、未就学児を持つ家族にとって、地方での暮らしを体験できる貴重な機会です。地域にとっても、住民と外部の人々との新しい関係を築く機会となり、地域活性化に向けた持続可能な施策として期待されています。これからの保育園留学の成功には、受け入れ先となる地域が家族のニーズに合った住居やコワーキングスペース、体験プログラムを提供し、子どもだけでなく親の地域生活体験を充実させることが鍵となります。また、地域に再訪したいと思うような持続的な関係性の維持とサポートも求められます。

まとめ

北海道厚沢部町で雪遊びをする子ども

保育園留学は、少子高齢化が進む地方における関係人口創出の新たな手法として注目されています。北海道厚沢部町と岐阜県美濃市の事例から見えてきたように、地域と外部の家族が相互に深い関係を築くことができる保育園留学は、今後、他の地域でも広がりを見せる可能性があります。保育園留学を通じて、地域が新しい価値を創造し、次世代につながる持続可能な発展のモデルを構築できることを期待します。