【書評】限界集落の経営学(藤井裕也/季刊しま・日本離島センター)

季刊しま第279号(公益財団法人日本離島センター)

公益財団法人日本離島センターの季刊しま第279号にて藤井裕也氏(ローカルエンタープライズ)が「限界集落の経営学」の書評を書いてくれました。同センターの許可をいただき、全文をJK記事として掲載させていただきます(斉藤俊幸)。

書評

本書は、過疎化が進む日本の限界集落に対し、土地利用型地域ビジネスの可能性を探る一冊です。著者は、「非競争」性を持つ若者が、適正規模の農業や粗放農業を通じて地域を再生できるとし、複数の集落が農地を共有して市場価値を生み出すビジネスモデルを提案しています。具体例として、山口県萩市の大豆ミートビジネスや高知県の牧場クラスターなどが紹介されており、成功事例から学ぶことができます。

土地利用型地域ビジネスを活用して地域社会を再生するための「実践的かつ具体的な提案」が数多く含まれているなか、著者が強調するのは、集落の長老組織が新たな経営人材や適正規模農家を承認することの重要性です。彼らが地域で一定規模の地域ビジネスを起こそうとする際、関係構築のプロセスを踏まなければならず、そのプロセスをうまく進められずに苦労している外部人材が多いのも事実です。本書で紹介されている五島市久賀島の長老組織が、後継者のために牧草地整備を行い、「むらつなぎ」を実現したプロセスは非常に興味深いものです。

また、都市と地方の所得格差を是正するための国費による設備投資、遠隔地からの経営人材の確保、土地の権利関係の調整を行う組織の設立など、政策提案も具体的で、著者の豊富な現場経験が感じられ、「そんな方法もあるのか」と新たな気づきを与えてくれます。

私自身、筆者が定義する「非競争」性を持つ一人であり、その特性についての考察をうなずきながら読みました。私の周りには、少量生産を行う移住者や地域おこし協力隊の経験者が多くいます。地方に移住しても、土地を使わないリモートワークや知的労働、ごく小規模な農業、あるいはごく少量の特産品を作って販売している事例を目の当たりにし、私と同様に荒れた農地を見るたびに、このままで地域の未来は大丈夫だろうかという危機感を抱いている方にとって、本書は、今後の限界集落の発展に向けたヒントを得られる一冊だと言えます。

斉藤とともに空路にて長崎県五島市に向かう藤井裕也氏(2016年11月)

限界集落の経営学で登場する水柿大地氏(左)と藤井裕也氏(右)、岡山県美作市

限界集落の経営学(学芸出版社)https://www.amazon.co.jp/dp/4761528923?tag=gakugeipub-22&linkCode=osi&th=1&psc=1