真珠の生産地の危機に、大学生が立ち上がった

岡村暢一郎(京都芸術大学)

私は京都芸術大学の岡村暢一郎です。私の専攻は法社会学という、皆様にとって少し聞き馴染みのない分野です。法社会学という学問は社会において法がどのように機能するか(また機能しないか)を観察し分析する学問領域でして、法の解釈というよりは、法の機能に着目した研究をおこなってきました。特に、産業規制や行政法規を中心に、法が産業秩序にどのような影響を与えるかという視点から研究を続け、京都大学で博士(法学)の学位を取得しました。実務と研究を同時に行う意味では、この学会の実務家研究者の1人として名を連ねてもいいかなと思っています。

パールの魅力を多くの人に伝える

さて、私が今年取り組んだ一例を紹介させてください。実務をと書きましたが、実は、家業として、日本の宝石「真珠」に関わるお仕事をさせていただいております。養殖真珠の原材料である真珠核の供給から、自社ブランドMADAMAの小売展開(伊勢丹新宿店・阪急うめだ店)など、真珠産業の川上から川下までをフィールドとして仕事をしています。このMADAMAと京都芸術大学の学生たちでMs.pearlプロジェクトという産学連携を7年行ってきました。このプロジェクトは、学生が主体となって、ブランディングを学びながら、「パールの魅力を多くの人に伝える」ことを目標にしたプロジェクトです。冠婚葬祭だけではない、わたしたちの「欲しい」を形にして伝えていく、そんなことを目標に取り組んでいます。今年は、愛媛県宇和島市の皆さんと産学公連携の取り組みをさせていただきました。コロナ禍で、宇和島市の真珠養殖は危機的な状況にありました。アコヤガイのへい死の影響を受け、生産量が40%減少し、13年連続で生産量日本一だった地位から転落し、事業継続を検討する業者が続出するという状況だったのです。そこで、#withPearlのプロモーションを行なっている宇和島市のみなさんと、これまで流通に乗らなかった羽パールと呼ばれる真珠を使ったジュエリーのデザインに取り組むことになりました。

本気で議論する土壌を作る

この産学公連携ですが、大切なことが1つあります。それは、本気で議論する土壌を作るということです。なんとなく見えている、綺麗なゴールでは学生たちも、また、地域も本気になれません。腹を括って課題を共有し、授業だからと妥協せずに最後まで拘ること、真剣に学生に向き合って欲しいということを、参加してくださる全ての大人にお願いをしてまわりました。学生たちは学生たちで、一般社団法人日本真珠振興会の真珠検定にみんなで挑戦し(全ての学生がジュニアアドバイザーの資格を取得しました!)真珠の知識を学び、元日経トレンディー編集長 北村森先生(サイバー大学)からマーケティングの特別講義を受け、また、休みの日や長期休暇を利用して、宇和島の生産者(愛媛県漁業協同組合下灘支所)のみなさん、#withPearlのプロモーションを行なっている宇和島市のみなさんと、現地フィールドワークを行って進めてきました。産地がどうなっているのか、芸術の力で地域に貢献できることは何か、そんなことを考えながら、真珠に対する理解と生産地の課題や想いをしっかりと受け止めてきました。

大学生が考えるデザイン

この学生のプレゼンには、宇和島真珠販売業組合の組合長、愛媛県漁業協同組合の組合長、日本真珠振興会の参与、と言った真珠業界のご重鎮たちに加え、宇和島市の職員、某百貨店の部長、そして、北村森先生が勢揃いし(お忙しい中ほんとうにありがとうございました)、学生たちの熱意に、参加した大人たちも妥協のない熱のこもった議論を繰り広げました。初回プレゼンではこれが本気で欲しいものなのかもう一度考え直しなさい、と約1ヶ月の猶予をもらって、再度プレゼンの機会をいただきました。この取り組みが日経未来ショッピングに掲載されています。ぜひご覧ください。

日経未来ショッピング記事 https://shopping.nikkei.co.jp/projects/mspearl

 

若者と社会のグランドデザインを考える

芸術大学の学生というとモノを作る、デザインをするというイメージが強いかと思います。確かにそうです。でも、デザインというのは社会に対するアプローチの方法を指すのであって、社会にどのような価値を問おうとしているのか、何が社会課題かをしっかりと考えることも、広義のデザインには含まれているのです。私は、大学において、地域文化論といった講義を担当していますが、まさに、これからの社会のグランドデザインを考えることを学生たちと学び合っています。ここに集まった実務家研究者の皆さんと、より実践的で具体的な課題に対して学び合いたいと思います。

皆さんにお願いです

ぜひ、皆さんの実践的な知見を学生たちに共有していただけると嬉しいです。我こそはと思われる方は、ぜひお声をかけてください。

Wrier:岡村暢一郎(京都芸術大学)