谷口嘉之(滋賀県立大学地域共生センター地域連携コーディネーター)
地域連携コーディネーターとの出会い
私は2018年に現所属の滋賀県立大学地域共生センターで地域連携コーディネーターとなりました。前年まで勤めていた会社(食品製造企業のバイオ関連部門)を52歳で早期退職し、滋賀県立大学大学院の副専攻プログラム「近江環人地域再生学座」を受講していたことが縁でこの仕事に巡り合いました。ところで大学の地域連携コーディネーターとは、どんな役割を担う人なのでしょうか?地域から大学への要望や問合せを受け、対応してもらえそうな教員や学生につなぐ連絡係のように捉えられたり、地域と大学が協働し新たな価値を共創する取組みの伴走者として期待されたりと、人によってその認識が様々であることが分かってきたのは仕事を始めて半年くらいが経ってからでした。またこのような環境の中で、他の大学の地域連携コーディネーターは何を目指して、どのように思考し、行動しているのかを研究テーマとしてみるのも面白いかもと思い立ち、2021年から大学院に籍を置いて研究活動も始めました。
地域と大学をつなぐ取組みとして「県大 TAKIBI TALK」を月1回開催
これからの地域と大学の関係をどうつなぐのか?
研究を進める中で、大学の地域連携には様々な課題があることが分かってきました。そもそも大学と地域の間には大きな隔たりがあります。互いに文化も違えば、ものごとの見方や考え方も異なるのですが、大学側からは研究や教育のためなら地域の人は好意的に協力してくれるだろう、逆に地域からは大学の教員の専門性や学生の若い力や斬新な発想を借りれば地域課題は瞬く間に解決するはずといった過剰な期待をしてしまうことも少なくありません。このような意識のずれは、地域連携が上手く進まない大きな要因となっています。全国にいる大学の地域連携コーディネーターは、このような状況の中でいろいろと調整を行い、試行錯誤しながら少しでも良い連携を実現するように努めていることがヒアリング調査で異口同音に語られました。しかし、地域連携は多様な大学と地域の特性の掛け合わせなので、そこに決まったやり方が存在するわけでもありません。このような状況の中、地域連携コーディネーターは地域と大学の間でどのように動き、両者の間をつないでいくのか?この問いに対する答えは簡単に見つかりそうにありません。
「大学地域連携コーディネーターのためのパターン・ランゲージ」
パターン・ランゲージによるコーディネーターの人材育成と地域連携の探究
そこでこのヒアリング調査をもとに、地域連携コーディネーターが工夫したり、心掛けたりしていることから、共通性のあるコツを抽出し、パターン・ランゲージを作成しました。パターン・ランゲージとは、様々な人の行為について既に良い実践をしている人からそのコツやポイントを聞き取り、その本質を捉え、実践のための「型」として言語化・体系化したものです。このパターン・ランゲージを共通言語として用い、コーディネーターが対話を重ね、お互いに自身の置かれた環境や対応している案件と対応させながら吸収していくことで、他者からの実践知を取り入れ、課題解決の方向性を認識する洞察力を身に着けていくことが期待されます。今回作成した27のパターンから成るパターン・ランゲージはまだ完成の域に達したとは言えませんが、今後多くの人により共通言語として使用される中で、一層ブラッシュアップされ、地域連携の本質に近づいていくものと考えています。