【出版】意図をもつ金融~インパクトファイナンスのすべて~

インパクト志向金融宣言が『意図をもつ金融~インパクトファイナンスのすべて~』を発刊しました。インパクト志向金融宣言はインパクト志向を有する国内金融機関が協同し、インパクト投融資の実践を推進する行動を率先して起こす集団として2021年11月に発足しました。本書は高崎経済大学学長水口剛教授が監修し、インパクト志向金融宣言署名機関16社の実践事例説明を掲載しています。

インパクト志向金融宣言(前文)

深刻化する地球温暖化問題、達成が危ぶまれる持続可能な開発目標(SDGs)、コロナ感染危機によってあぶり出されたデジタル化・医療制度改革の遅れなど、内外の環境・社会課題は山積となっている。こうした課題の解決に向けて、政府・自治体・国際機関による公的資金に依存した対応には明らかな限界があり、民間資金による投融資が不可欠である。このためには、金融機関が企業活動のもたらす環境・社会への変化(以下「インパクト」という)に着目し、投融資先である企業の生み出すネガティブインパクトを削減することおよびポジティブなインパクトを創出する双方の活動が求められている。

このため、環境・社会課題解決に取り組んでいる企業の活動のインパクトを可視化しながら、企業が生み出す追加性のあるインパクトが持続するように投融資による支援をすること、あるいは、革新的な技術開発やビジネスモデルを伴う事業にリスクマネーを供給することなどを通じて、積極的に課題解決を目指す企業へ民間の投融資資金を振り向けることが不可欠となっている。企業のこうした事業活動によってもたらされるインパクトは、当該事業の持続可能性を高め長期的な企業価値の向上にも資するものであって、収益力の向上とも両立しうる。但し、その両立や持続可能性を維持することは必ずしも簡単ではなく、その実現のためには企業側の堅牢で実効性の高いビジネスモデルの構築と、金融機関側の高い事業性評価能力、対話能力、商品組成能力が不可欠である。その意味で、かかる課題解決型事業の推進に向けた資金循環を作りだすためには、企業と金融機関による共創的な取り組みが不可欠である。

こうした我が国社会の要請に対応して、各金融機関は自らの存続にかかる持続可能性を問うたうえでその存在目的を再認識もしくは見直ししたうえで、経営者の意図として、その組織において包括的にインパクトをとらえて環境・社会課題解決に導くという考え方(以下「インパクト志向」という)を持つこと、もしくはこれまで以上に高めていくことが求められている。同時に、インパクトのある企業に民間資金を動員するためには、対象となる投融資が生み出すインパクトの測定・マネジメント(Impact Measurement and Management、以下「IMM」)を通じて創出されるインパクトに関する情報の適切な可視化とマネジメントを伴うインパクト志向の投融資を提供する必要がある。インパクト志向の投融資の実践において、IMMの在り方については、これを担う金融機関の属性や企業側の制約に応じて、適切かつ現実的に考える必要があり、今後はIMMの実践が不可欠である。また、インパクト志向の投融資は既に海外市場でより高い水準で実践されており、海外から既に多額の資金を取り入れている我が国としては、国際的に開発され進化をとげている原則・基準を準拠もしくは参照しながら、海外の推進機関・団体とも密接に連携・協力して、インパクト志向の投融資の推進活動を進める必要がある。

金融機関のインパクト志向の追求とIMMの実践に向けた取り組みは、我が国の金融業界が必要とする重要な変革作業であり、各金融機関の経営者のリーダーシップが不可欠である。金融機関が扱う資金の流れを可能な限りインパクト志向へと変革させ、環境・社会課題を自律的に解決しうる持続的な資金循環を生みだすことが必要であることから、自らの組織のみならず署名機関で横断的に以下の行動を実践する。

本文https://www.impact-driven-finance-initiative.com/

 

書籍紹介

金融には大きな潜在力がある。これが私たちの旅路の出発点だ。金融を通じて環境・社会課題の解決を目指す「インパクトファイナンス」の市場が急速に拡大している。なぜ今、インパクトファイナンスが必要なのか―。財務的リターンは得られるのか―。具体的な取組みとともに、実務上の課題とその解決の方向性を提示。銀行、保険会社、運用機関、ベンチャーキャピタル等、金融機関がつくるイニシアティブである「インパクト志向金融宣言」による挑戦とそこから得られた実践知。監修:水口 剛 (高崎経済大学 学長)商社、監査法人等の勤務を経て、1997年高崎経済大学経済学部講師、2008年同大学教授、2021年より現職。専門は責任投資(ESG投資)と非財務情報開示。

主要目次

序 章 インパクトファイナンスとは何か
・1 インパクトファイナンスへの注目、なぜ今なのか?
・2 インパクトファイナンスの定義
・3 インパクトファイナンス市場は4年で34倍に
第1章 インパクト志向金融宣言の挑戦
・1 インパクト志向金融宣言の立ちあげ
・2 動き出したインパクト志向金融宣言
・3 インパクト志向金融宣言にかける思い
第2章 インパクトファイナンスをめぐる潮流
・1 インパクトファイナンスの国際動向
・2 インパクトファイナンスを支える原則類・フレームワーク等
・3 日本におけるインパクトファイナンス
・4 国際比較からみた日本の特徴
第3章 IMMの実装
・1 IMMとは何か
・2 IMMの普及と定着
・3 IMMの現状
・4 IMMの課題
第4章 インパクト志向金融の実践――ケーススタディ
・CASE1(未上場株式)キャピタルメディカ・ベンチャーズ
・CASE2(未上場株式)GLIN Impact Capital
・CASE3(未上場株式)第一生命保険
・CASE4(未上場株式)はたらくFUND
・CASE5(未上場株式)UntroD Capital Japan
・CASE6(上場株式)かんぽ生命保険・コモンズ投信
・CASE7(上場株式)三菱UFJ信託銀行
・CASE8(上場株式)りそなアセットマネジメント
・CASE9(融 資)SBI新生銀行
・CASE10(融 資)三井住友信託銀行
・CASE11(融 資)みずほ銀行
・CASE12(債 券)大和証券
・CASE13(債 券)ティー・ロウ・プライス・ジャパン
・CASE14(地域金融)静岡銀行
・CASE15(地域金融)京都信用金庫
・CASE16(地域金融)肥後銀行
第5章 インパクトファイナンスの発展に向けた課題
・1 インパクトとリターン
・2 システムレベルの思考と投資
・3 インパクトファイナンスの「連携」
終 章 インパクト志向金融が描く未来
・1 システムレベルのリスクに挑む
・2 金融の再定義

・3 インパクト志向が主流の未来に向けて

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