京都駅北陸本線ホームは被災地につながっている
筆者は若くはなく、被災地に入ることは迷惑なだけだと考えています。地域活性学会で現地調査があるのであれば、10年後、20年後を見据えて、若い研究者に託すべきだと考えています。ここまでの論点と自分の考えをまとめました。ご意見ございましたらください(斉藤)。
災害復興に関する発言をまとめました(2024年2月11日更新)
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米山隆一衆議院議員は、「維持が困難だった集落で地震で甚大な被害を受けたところは、多額のお金で復興して、結果被災者が年老いた数十年後に廃村になるより、被災者も若いうちに移住を考慮すべき」「非常に言いづらいことですが、地震前から維持が困難になっていた集落では、復興ではなく移住を選択することを組織的に行うべきだ。現在の日本の人口動態で、その全てを旧に復することはできません」「人の少ない集落での暮らしは実は高齢者には厳しく、一度街場(市街地)に住むともう戻れない。そこに暮らす人のことを思えばこそ、移住は選択肢だ」と発言したことを新聞は伝えています。
- またシンクタンクの研究者が、「能登半島地震であえて問う、20年後に消滅する地域に多額の税金を投入すべきか。人口減少の日本で問われる、何がどこまで公費で救済されるべきかの線引き」という記事を寄稿しています。
- 農水省の食料・農業・農村政策審議会企画部会で「産業としての競争性なり自律性を確保していこうという時に、復興の優先順位として棚田を再現(する)のは、首をかしげてしまう」「復興に向けて国が施策を講じるには、「割り切る」判断も「せざるを得ない」「ある程度の限界になった所は、人には集住していただくしかない」との委員の発言を伝えています。
- 元復興庁事務次官の岡本全勝氏(総務省)は『東北を見に行って、現実的に考えてくれ』と言うのが、国の仕事です。まずすべてを災害以前の状態に復元するという考えは現実的ではない。東日本大震災では『元に戻す』という発想でやった。でも結果としては、うまくいかなかった。『地元にとって必要なことをする』という方針で、多くの町を復旧させましたが、時間が経っても人は戻らなかった。「街や集落が元に戻るかどうかは、住民の意思と地域の条件による。住民の意思とは、ここに住み続けたいと思う意思だ。地域の条件とは、働く場所があるかどうかと、後継者がいるかどうかだ。高齢者数人しかいないとか、跡を継ぐ子どももいない『小さい集落』については、(存続は)難しいと思う。今後さらに住民が減少し、共同体の維持も難しい。できれば、市街地や中心集落に生活拠点を移してもらう。ある程度の『選択と集中』『復旧の優先順位』が発生するのは避けられない」と述べています。
- 林直樹准教授(金沢大学)は「まず、強制移住は論外。まったくもって駄目な話です。一方、皆で話し合った結果、市街地などに移住した方がいいよね、というのならあり得ると思う。しっかり議論してから決断するといったプロセスが大事」「故郷を守るか・捨てるかといった、二者択一の議論は不毛だ。」「無住化を選択するとしても、『こんな無住の形もある、あんな無住の形もある、住まずに守るという形だってある。だから、どうですか?』という感じにしないと。『無住とは故郷を見捨てて…』みたいな議論で進むのはよくない。当事者にとって二択しかないというのはつらい。複数の選択肢を示した上で、建設的に議論をすべきではないでしょうか」「でも、腰を据えて『さあどうしようか』という瞬間が近々来るはず。そのくらいで話し合うのがベターではないでしょうか。集団移住を選択するにしろ、しないにしろ、住民の合意が大切であり議論を避けて通ることはできません」と述べています。
論点の整理
- 被災地はコンパクト化を進めるべきか。
- 市町村別の分散型地域づくりを進めるべきか。広域で検討すべきか。
- 農村集落は撤退すべきか。維持すべきか。
- 復興ではなく移住を選択すべきか。
- 消滅する地域に多額の税金を投入すべきか。
- 重要伝統的建造物群保存地区の天領黒島地区(輪島市)は大きな被害を受けた。何を守るべきなのか。
- 朝市や棚田といった地域資源はどうつないでゆくのか。
- 棚田の再現の優先順位は低いのではないか。
- どのようにして2次避難先から戻るのか。地域に戻らない被災者は能登地域との関係をいかに保つのか。
- 高齢者数人の後継者のいない『小さい集落』の存続は難しいのではないか。小さな集落の住民は市街地や中心集落に移住してはどうか。『選択と集中』『復旧の優先順位』が発生するのは避けられないのではないか。
- 故郷を守るか・捨てるかといったは二者択一の議論は不毛ではないか。複数の選択肢を示した上で、建設的に議論をすべきではないか。
プッシュ型のまちづくりがあるのではないか
地方自治法と農業基本法の改正が同時に進行しています。2000年に地方分権一括法が施行され、多くの事業が地方自治体に移管されました。今回の地方自治法の改正案は、国の自治体に対する権限を拡充する案であり、国の関与を鮮明に打ち出したものです。一方、農業基本法は、農地の確保と適正・有効利用に関して、「国が責任を持って食料生産基盤である農地を確保し、適正かつ効率的な利用を図る」と明記しています。まちづくりや農村政策に国が“トップダウン”で入るのではなく、岸田首相が能登半島地震の記者会見で盛んに発言している“プッシュ型”で関与するということです。プッシュ型支援とは、被災地の市町村の要請を待たず、国が支援に入ることです。地方自治や農村政策に対して国の関与を強めるとは、人口減少で危機的状況にある市町村が進める地域づくりがうまく言っていないとの判断を国がしているからではないでしょうか。まさに集落消滅や耕作放棄といった危機的状況があちこちで見られます。もし存続が難しい『小さな集落』があるのであれば、そこが国が直接関与すべき場所です(斉藤)。
国が住民とともに社会課題を解決する絶好機を迎えている
小泉内閣で実施した「官から民へ」の代表例が郵政民営化です。安倍内閣がコロナ禍で実施したアベノマスクの広告代理店への外注はその象徴的な帰結点です。サッチャーやレーガンから始まった新自由主義に対して、「公的機関は自ら企業と組んで社会課題を解決しようとはせず、むしろ公的機関の民営化や外注を進めてきた」と英国の経済学者マリアナ・マッツカートは批判しています。つまり国の民営化の流れは、国のリスク回避へともつながりました。安部首相亡き後、新自由主義からの脱却が早まっていると思います。国際情勢の不安定さが、地方自治法と農業基本法の改正は国の関与の強化へとつながっているのではないでしょうか。国はリスクを背負い、住民とともに社会課題を解決する絶好機を迎えているのではないでしょうか。そしてそのスタートが能登半島の復興にあるのではないかと思います(斉藤)。
倒壊した山間部の住宅
写真提供:池田幸應北陸支部長
Writer:斉藤俊幸