ふるさと住民登録制度をどう活かすか(牧 慎太郎)

ふるさと住民登録制度をどう活かすか

昨年の我が国の出生数は70万人余、死亡数は160万人余で、その差は約90万人に上りました。1年間で秋田県や和歌山県に匹敵する人口が失われた計算になります。人口減少と高齢化が進む中、地域の活力をどう維持するかは大きな課題ですが、その鍵として注目されるのが「関係人口」という概念です。交流人口以上・定住人口未満とされ、地域住民ではないが観光客より深く地域と関わる人々を指します。今年度から総務省が開始した「ふるさと住民登録制度」は、この関係人口を「見える化」する新たな仕組みです。住所地以外の自治体とも継続的に関わりたい人が、スマホアプリを通じて‟ふるさと住民”として登録できます。登録区分は二つあり、ベーシック登録では、自治体からのお知らせを受け取るなど、気軽に地域とのつながりを持つことができます。登録できる自治体数に上限はありません。一方、プレミアム登録は、年3回以上の地域活動への参加など、地域の担い手としての積極的な関わりが期待され、登録できる自治体は一人あたり3団体までに限定されています。総務省は本年度、7道県58市町村でモデル事業を展開し、全国共通のプラットフォームとなるシステムの構築を進めています。ふるさと住民登録制度への関心は徐々に高まっており、私自身も今年5月、大正大学地域創生学部の講義で同制度をテーマにお話しする機会がありました。グループ討議では、学生たちにどのような自治体、どのような地域活動なら参加して、ふるさと住民としてプレミアム登録してみたいか話し合ってもらいました。登録してみたい自治体としては、出身地に加え、趣味や旅行を通じて何度も訪れたい地域などが挙げられました。参加してみたい地域活動としては、農作物の収穫体験、イベント運営のサポート、お祭りの手伝い、海岸清掃など、地域に溶け込む実践的な活動が関心を集めました。地域創生を学ぶ学生という特性もあるかもしれませんが、東京の大学に通う若者たちが、地域との関わりや地域活動への参加に強い関心を持っていることを改めて実感しました。地域活性化において重要なのは単なる人の頭数ではなく、地域内外に広がる“つながりの総量”です。定住人口が減少しても、関係人口を増やすことで地域力を高める余地は十分にあります。ふるさと住民登録制度のイメージ(総務省ホームページより) 

全国過疎地域連盟の研究会

全国過疎地域連盟では、令和8年度調査研究事業としてふるさと住民登録制度の活用をテーマに掲げ、5月26日に第1回研究会を開催しました。通称「過疎連盟ふるさと住民登録制度研究会」は、岡崎昌之・法政大学名誉教授を委員長として、次の表のとおり8名の委員で構成され、オブザーバーとして総務省地域力創造グループのふるさと住民登録制度推進室長と過疎対策室長も参加。第1回研究会では、今後の検討に向けた論点の洗い出しを行い、私からも幹事として、以下の5つの論点を提示しました。

(1)地方財源の配分

ふるさと住民登録制度については、第2・第3の住民票の所在地として住民税の配分に反映できないかという議論があります。しかし、現行制度上は実務的な課題が多く、ふるさと納税制度でも、寄付金控除を通じて実質的な納税先の選択を可能にしています。ふるさと住民登録制度に取り組む自治体の財政需要に対しては、まずは特別交付税による支援措置が講じられると予想されますが、私は将来的には普通交付税による支援措置を検討しても良いのではないかと考えています。現行制度でも、昼間人口(昼夜間人口比率)を指標として「消防費」や「清掃費」を補正し、普通交付税を増額する仕組みがあります。これは、住民票のある「夜間人口」に加え、通勤・通学・観光などで昼間に流入する人口が多い自治体では、消防・救急やごみ処理の需要が増大することを考慮したものです。同様に、ふるさと住民登録制度についても、プレミアム登録者数に応じて普通交付税の「地域振興費」を増額補正するといった仕組みは、十分に検討に値するのではないでしょうか。ふるさと住民登録制度を地方財源の配分にどう反映させるかは、自治体の関心も高い重要な論点です。

(2)選挙制度と議員定数

2025年国勢調査の速報値では、5年前と比べて人口が大きく増加したのは東京都のみで、沖縄県がわずかに増加したものの、その他すべての道府県で人口が減少しました。憲法改正論議の中でも参議院の合区解消が一つの論点となっていますが、このまま人口の偏在が進めば、東京都選出議員だけが増え続け、島根・鳥取、高知・徳島に続き、人口規模の小さい順なら福井県と山梨県が“飛地合区”の対象となりかねません。衆議院の小選挙区についても、地方の定数削減は政治的な影響が大きい一方、東京都選出議員にとっても、定数増による区割り変更で選挙区が細分化されることが果たして望ましいと言えるのでしょうか。ふるさと住民登録制度の登録者数が政府目標の1,000万人規模に達する段階では、東京都民約1,400万人のうち、おそらく数百万人が他地域に“もう一つの軸足”を持つことが明確なデータとして示されることになります。そうなれば、日本の政治・経済の中心である東京が特別な地域であること、そして流入人口の多い東京都あるいは首都圏については、これ以上国会議員の定数を増やすべきではないという理論的根拠となり得るのではないでしょうか。「住所は1つ」という前提のもとで1票の格差を2倍以内に抑えるという現在の画一的な解釈を見直し、地方の議員定数が一方的に削減され続ける流れに一定の歯止めをかけることも、ふるさと住民登録制度に関する重要な論点だと考えられます。

(3)移動の交通費

ふるさと住民登録制度を活用して二地域居住や関係人口を増やしていくうえで大きな障壁となるのが、住所地と登録自治体を往復する交通費です。現行のふるさと納税制度では、宿泊と鉄道・航空を組み合わせた旅行商品であれば返礼品の対象となり得ますが、実家や友人宅に滞在する場合の交通費は対象外です。また、小規模な民宿やゲストハウスでは、航空会社やJRと連携してパッケージ旅行をつくることは難しいのが実情です。そこで、プレミアム登録者が住所地と地域を往復する際の交通費について、ふるさと納税並みの税額控除等を認める仕組みを検討してはどうでしょうか。実際、全国二地域居住等促進官民連携プラットフォーム(長野県、田辺市、那須町、航空会社等で構成)も、今年5月、プレミアム登録者に対してふるさと納税で交通券等の返礼品を可能するよう提言しています。ふるさと納税並みの税額控除などで交通費負担を軽減できれば、地域の担い手となるプレミアム登録者は増えるに違いありません。また、自治体がプレミアム登録者に交通費補助を行った場合に、関係人口の往来を促進する経費として特別交付税による支援措置を講じることも考えられます。その際には、単にプレミアム登録者の人数だけでなく、東京など大都市からの距離に応じて上限額を引き上げたり、過疎地域や離島など条件不利地域には算入率(支援割合)を上乗せしたりするなど、地域の実情に応じた補正も検討すべきでしょう。東京一極集中を止めることは難しくても、関係人口や二地域居住が増えれば、確実に地域の活性化につながります。

(4)ふるさと納税制度の見直し

現在のふるさと納税制度は、自治体とのつながりとは無関係に、返礼品を目的とした“税額控除付きネット通販”として利用されている側面があります。実際、自治体名や寄付金の使途ではなく、牛肉やカニなど返礼品の品目から寄付先を選ぶカタログショッピングのような民間ポータルサイトも多く、自治体間で不毛な返礼品競争が過熱している状況です。総務省の調査によれば、サイト事業者への手数料は平均11%を超え、返礼品や事務経費を差し引くと、自治体が実際に活用できる寄付金は半分近くまで目減りしています。返礼品だけを見て、自治体名すら意識せずに寄付が行われる現状は、ふるさと納税の本来の趣旨から大きく逸脱していると言わざるを得ません。そこで、制度本来の趣旨に立ち戻り、ふるさと納税の利用を寄付先の自治体に関心を持ち、地域情報を継続的に受け取る“ふるさと住民登録者”に限定する方向で検討してはどうでしょうか。まずは、ふるさと納税サイトで寄付する時の決済終了画面で「この自治体のふるさと住民になりますか?」と案内し、ふるさと住民登録制度のベーシック登録を促すところから始めても良いかもしれません。2024年のふるさと納税利用者は1,080万人に達しており、仮に利用者がふるさと住民登録を行う仕組みになれば、政府が掲げるふるさと住民登録者1,000万人という目標もすぐに達成可能です。

(5)災害時の避難受入れと木造応急住宅の備蓄

南海トラフ地震や首都直下地震への備えという観点も、ふるさと住民登録制度に取り入れてはどうでしょうか。鳥取県智頭町には2011年に創設された「疎開保険」という制度があります。加入者が災害に遭い智頭町へ疎開する場合、1日3食・7日分の宿泊場所と食事の提供を受けられる仕組みです。平時には、米や野菜、工芸品などの特産品の送付、民泊や森林セラピー体験の割引などの特典も用意されています。これまで実際に“保険”として利用された例はありませんが、割引特典を活用して町内に宿泊した人は延べ200人を超え、関係人口の創出につながっています。ふるさと住民登録制度においても、プレミアム登録者が平時から地域活動に参加し、いざ大規模災害が発生した際には、馴染みのある地域へ避難・疎開できる仕組みを導入することが考えられます。さらに、南海トラフ地震では84万戸の応急仮設住宅が必要とされており、短期間でこれだけの住宅を供給することは現行体制では困難です。このため、国産材を活用した移動式の木造応急住宅を社会的に備蓄する構想が進められています。今年6月には国会議事堂敷地内で、林野庁長官や多数の国会議員が出席し、オフサイト建築方式による木造応急住宅の展示会も開催されました。木造応急住宅を備蓄する際には、平時はふるさと住民の滞在施設として活用し、災害時には被災地へ移設して応急住宅として利用するというフェーズフリーな運用が考えられます。被災したプレミアム登録者が、日頃から関わりのある地域へ避難する際の応急住宅として、移設はせずにそのまま活用しても良いと思います。戦後に植林された国産材は伐採期を迎えており、木造応急住宅の備蓄を進めることは、安定的な木材需要の創出を通じて、山村地域の林業や木材加工業の振興につながることも期待できます。

関係人口を増やし、地域力を高める

現在、全国の市町村の半数を超える885団体が過疎地域に指定されています。その背景には、多くの住民が東京をはじめとする大都市圏へ流出してきたという実態があります。こうした都市部に居住する地方出身者に「ふるさと住民登録」を促すとともに、地域の魅力に共感する新たな関係人口を創出し、地域力の向上につなげていくことが、今まさに求められています。過疎連盟のふるさと住民登録制度研究会では、今年9月から11月にかけて、全国の都道府県および過疎市町村を対象にアンケート調査と現地調査を実施し、来年3月までに報告書として取りまとめる予定です。人口減少が避けられない時代において、ふるさと住民登録制度が、定住人口の減少を補いながら関係人口の拡大を促進し、持続可能な地域づくりを支える新たな基盤となることを期待しています。

牧 慎太郎(まき・しんたろう)

1986年自治省へ入省。総務省では情報通信政策局地方情報化推進室長、自治行政局情報政策企画官、行政管理局管理官(文科・法務省等担当)、地域力創造グループ地域自立応援課長、消防大学校長を歴任。奈良県、北九州市、島根県、北海道、兵庫県、熊本市など地方勤務も数多く経験。現在、千葉大学特任教授、立教大学大学院客員教授、自治大学校客員教授、全国過疎地域連盟専務理事、総務省地域力創造アドバイザー、内閣府地域活性化伝道師、日本山岳会会員(日本三百名山を完登し、キリマンジャロにも登頂)著書『山族公務員の流儀』、時事通信社「地方行政」に 『山族公務員の視点』 を連載中

【ホームページ】https://maki13378.jimdofree.com/

千葉日報記事(参考)