どうすれば地方公務員が博士になれるのか(2)

北川雅敏

前回「なぜ地方公務員が博士号なのか?」を寄稿いただきました三重県庁で働く北川雅敏さんに「どうすれば博士になれるのか?」を寄稿いただきました。”Why”から”How”への続編です。博士には論文博士と課程博士がありますが、ここでは博士課程を前提にします。ご参考にしてください(斉藤)。

自分が何を研究したくて、ベストの先生がどこにいるのか

まず、どこの大学院を受験するかを決めなければなりません。博士課程への編入学を考える実務家であれば修士課程を終えている方が大半だと思いますのでその大学の後期課程を検討するのが自然な流れではないでしょうか。ただし、自分の研究をより的確に指導してもらえる先生が他大学にみえるのであればそちらの受験も選択肢になります。博士課程での研究は修士以上に「とんがった」ものになりますので、自分が何を研究したくて、その指導をしてもらえるベストの先生がどこにみえるのかが最大のポイントになると思います。他には、仕事をしながら通える場所にあるのか(時間)、学費・交通費がどのくらいかかるのか(費用)などを総合的に勘案することになります。

過去の研究実績と研究計画が重要

次に受験です。ここでの最大の関心事は「どうすれば合格できるのか?」だと思いますが、残念ながら私は受ける側の経験しかありませんので的確なアドバイスができません。ただ、京大法政理論専攻の場合、社会人特別選考の試験は論文審査と口頭試問でしたので、過去の研究実績と研究計画が重要であると言えます。口頭試問でもこの二つについてかなり突っ込んで聞かれました。とりわけ研究計画は、これがしっかりしていないと入学後も苦労することになりますので相当練っておく必要があります。

1年目はほぼ先行研究レビューで終った

入学後、私の場合、1年目はほぼ先行研究レビューで終わりました。演習も取っていましたのでその準備とともに、何本か論文を読んで指導教授とディスカッションをする毎週でした。2年目からは論文のフレームを考えつつ、必要なデータを集めて分析することも始めました。4年目にかけて先行研究調査やデータの収集・分析をしつつ、書く作業を増やしていったという感じです。通学頻度も2年目は学内のワークショップに合わせて半月に1回、3・4年目は月1回程度でした。法政理論専攻の場合、博士論文のボリュームは10万字程度というイメージでしたが、「研究のお作法」を知らない私は10万字超の原稿を書いてはダメ出しをされ、再構成し、データを揃え直して再び書いてまたダメ出しをされての繰り返しでした。結局、4年終了時に合格水準の質にまで持っていくことができなかったため、研究指導認定退学をしたうえで、さらに1年をかけてブラッシュアップをした次第です。

大学図書館でひたすらコピーしていた

ちなみに、よく聞かれる質問の一つに登校時の研究室での過ごし方があります。私の場合、朝一番の高速バスで京都へ行き、演習やワークショップに出て、教授の論文指導を受ける以外の大半は図書館で文献を探してコピーをしていました。毎日研究室にいられない社会人院生にとって最大のネックの一つは大学図書館を日常的に使えないことです。(もう一つの大きなネックは、院生同士日常的に議論ができないことです。)お金で解決できることはお金で解決しようと決めていましたので買うことができる本・資料は全て購入していましたが、廃刊になっている専門書や雑誌、そして古い政府系の資料はどうしても図書館で借りるしかありません。しかし、博論レベルの文献収集では地元の図書館ではあまり役に立ちませんでしたので、通学時には大学図書館で文献を探してひたすらコピーをしていました。

無理をしないこと

私は博士課程に入る時に3つのことを決めました。「無理をしないこと」、「職場から文句を言われないように仕事は完璧にする」、そして「お金で解決できることはお金で解決する」です。最後に「無理をしないこと」について一言触れておきます。私の場合、博士号を得るまで結局5年かかりました。3年で終了できる方もみえるかもしれませんが、いずれにしても長丁場です。ちなみに、博士後期課程に在学できるのは6年までです。研究指導認定退学後3年以内(クレジット期間)であれば学位請求論文を提出することができますが、最長9年で博士論文を仕上げないと課程博士は取れないことになります。この間、仕事、学業、そして家庭人としてのプレッシャーを受け続けることになります。ですから、最初から頑張り続けると途中で挫折することになりかねません。少なくとも私はそのように思いましたので「無理をしないこと」にしました。学部上がりの研究者志望の院生であれば早く学位を取らないと就職が難しくなります。しかし、社会人の場合、学位取得が1、2年延びても生活に困ることはありません。反対に頑張りすぎて体調を崩しては元も子もありません。社会人院生は日々仕事のプレッシャーも受けているわけですから息抜きも必要です。ですから私はお楽しみのジャズライブにも月に何回か行っていましたし、旅行にも出かけることもありました。「無理をしない」と決めても結果として相当無理をすることになるかと思いますが、博士号取得が目標のはずですから、息抜きもしながらともかく走りきることが重要です。ゆっくりでも走り続けていれば伴走者である指導教授がきちんとゴールまで導いてくれると思います。

Writer:北川雅敏