看護師として地域で生活する人々に対する平時・災害時の看護実践から

横関恵美子(四国大学看護学部看護学科講師)

看護師になって30年

はじめまして。私は四国大学看護学部看護学科で教員をしております横関恵美子と申します。もう少ししたら看護師になって30年となります。その前半20年間余りは、徳島赤十字病院のICU、外科病棟、脳外科・小児科混合病棟、救急外来で、また、相談支援専門員(小児救急看護認定看護師)として療育センターで療育相談にも携わりました。そして、そこでは地域によって利用できる社会資源の種類や量に差があることを知り、障害の程度による支援の違いや制度上の制約の中で、家族は適切な支援を提供してくれる社会資源を選択しようと努力している様子を目の当たりにしました。

東日本大震災では救護班の一員として活動に参加

東日本大震災では救護班の一員として活動に参加させていただきました。そこでは、体調不良に苦しむ大人や子どもの救護にあたりましたが、この体験は、言葉ではなかなか表現できない人たちの苦痛に早く気づき、必要な支援の手を届けるためにはどうすればよいかということを考える機会になりました。

東日本大震災での活動(岩手県宮古市)

臨床の場から教育研究の場へ

こうして、培った知識や経験は、苦痛に苛まれる患者の家族の思いを少しでも前向きにできないだろうかという研究と、これらを伝え一緒に考えるという教育に携わりたい思いとなり、大学に移り、教育研究活動に従事するようになりました。研究を進めるにつれ、運動障害があり、言語的コミュニケーションが難しい人の体調変化に気づくことの難しさや、介護する家族が状態の変化に対応するための常に緊張した環境の中にいることなどがわかりました。家族はこのような対象者との根気強い関わりの中から、その反応が理解できるようになると、それが大きな喜びとなっていました。一方で、他者に任せる心配も生じ、社会資源の活用を妨げていることもわかってきました。これらから、効果的に社会資源を活用していくためにも、対象者の反応を理解することが解決しなければならない最も根底にある課題であると認識しました。

小学校での救急法の指導(徳島県西部の小学校にて)

課題解決に貢献する新技術の創成に向けて

この課題解決のためにどのようにしていけばよいのか、と考えていた時、四国大学の山本耕司教授の「工学は人の生活に役立ち、生活を便利にするものを作り出す分野である」というお話を聴きました。そして、研究に対する考え方をお聴きする中で、山本教授の研究室でこの課題の解決に取り組みたいと思い経営情報学研究科への進学を決めました。近年、メディア情報学分野は飛躍的な技術の進歩を遂げています。コミュニケーションの媒体として存在する音声や、映像のデジタル技術、データ圧縮技術による記録量の向上、さらに、ワイヤレス通信技術は非接触のままバイタルサインデータを高精度にセンシングするなど、新たな装置が開発されています。それらを用いて取得したデータを利活用し、数学的モデルを構築して、コンピュータシミュレーション(特に機械学習)によって特徴量を取得し、さらに可視化・分析することが可能になっています。そこで、このような進化した技術を用い、年齢や障害に依らない社会を目指して知識や情報を分野横断的に共有し、意思疎通が難しい人たちの反応を捉えるシステムの開発に取り組み学位取得も叶いました。地域で生活する中でいつもと違う苦痛におそわれたときの不安は極めて大きく、さらに災害時にひとりで苦しむことになればその不安ははかり知れません。状態変化に早く気づき、適切な援助に結びつく、そんな期待を胸に、これからもこのシステムの精度向上を精力的に進めていきたいと考えています。現在研究を進めているシステムは、高齢者から小児まで幅広い活用が可能であり、地域での生活に安心が生まれることは、地域の活性化にも大いに寄与できるものと考えます。これからも本システムの社会実装に向けて研究を進めて参りますので、ご指導ご助言等をよろしくお願いいたします。

大学院修了を迎えて山本耕司教授と

Writer:横関恵美子(四国大学看護学部看護学科講師)