あなたは、何を成し遂げるために協力隊になりますか?

「寺領味野里」の皆さんと協力隊時代の筆者

元・広島県安芸太田町地域おこし協力隊の河内佑真と申します。現在は、とある地方自治体の職員として働いています。

一般的に、地域おこし協力隊をキャリアの“最終目的地”と考える人はいません。隊員本人にとって見た場合、協力隊制度は、あくまでも(任期中、もしくは任期後に)何かを成し遂げるための手段の一つです。決して協力隊になること自体が目的ではありません。様々な選択肢がある中で、その時最もベストに近い手段が協力隊であったということです。

私もそうでした。今回は、私がなぜ安芸太田町の地域おこし協力隊になったのかをお話しします。

小さな町との大きな出会い

2012年秋、私は仕事の関係で広島に住んでいました。幼いころから人口減少や高齢化を肌で感じ、ぼんやりと「地域を元気にする仕事がしたい」という想いがあって選んだ企業でした。しかし、当時の私には、仕事を通じてその想いを実践できている実感はほとんどありませんでした(今思えば、私自身の想像力が乏しかっただけですが)。

当時、世の中は東日本大震災からの復旧復興の真っただ中。テレビを点けると、被災地へ果敢に飛び込み、自身のスキルや経験を活かして、地域の困りごと解決に奔走する若者たちの姿がしきりに報じられていました。私は、その報道に触れる度、「自分は何もできていない」という焦りを感じるとともに、地域の50年100年先を見据えた取組に打ち込む彼らがとても羨ましく思えました。

また、この頃は、地方自治体のプロモーションに変化が起こり始めた端境期のような時期でもありました。香川県の「うどん県」に代表されるように、SNSを通じて、あえて自虐的な表現で地域の魅力を発信する手法が定番化し始めた頃です。広島県も、出身者の有吉弘行さんを起用した「おしい!広島県」を展開し、全国ネットのテレビ番組やインターネット上で大きな反響を集めていました。

「おしい!広島県」(全国知事会ウェブサイト)

このトレンドに素早く反応したのが安芸太田町でした。いわゆる“残念な”自治体プロモーションにありがちなのが、都道府県と市町村が全く違うコンセプトであったり、都道府県の企画に市町村が“お付き合い”するといったケースです。しかし、安芸太田町の場合は、県の企画に積極的に“便乗”することで(決して“パクリ”ではない)、多くの露出を獲得していました。

本家に似せて作られたポスターでは、有吉さんの代わりを印刷屋のおじさん(その後大変お世話になる)が務め、町役場の女性職員有志が町内各地を踊ってPRする動画も制作されました。

・本家「おしい!広島県」 https://youtu.be/2H5XYB-GQC0
・便乗企画「おしい!の~ぉ。安芸太田町」 https://youtu.be/D1tjwNMGTuo

県内最少人口、高齢化率県内ワーストの小さな町がやってのけた見事な便乗企画を、県内メディアはこぞって取り上げました。この時の報道が、私と安芸太田町の出会いでした。

便乗企画「おしい!の~ぉ。安芸太田町」(FireHuntDesignWorks提供)

日本の「先駆け」を志す

少ない予算で大きな成果を獲得する見事なプロモーション手法と、絶妙なタイミングを逃さないスピード感。そして、地元住民にスポットを当てて、地域の盛り上がり感を演出するイメージ戦略。私は「ここに行けば最先端の地域振興を学べるはずだ」と確信し、安芸太田町への移住を決意しました。

安芸太田町のことを調べていると、ちょうど町が地域おこし協力隊を募集していることが分かりました。「協力隊? 青年海外協力隊みたいなものか?」当時はまだ制度開始から4年目で、広島県内でも活動している隊員はわずか11名。要領を得ないものの、「移住は決めているし、なっておいて損はないか」という軽い気持ちで応募してみることにしました。

また、もし私が何らかの成果を上げることができれば、「自分にもできそうだ」という挑戦の連鎖が続くだろうと考えました。安芸太田町をはじめとした過疎地域は、まさしく日本の“先駆け”といえる存在です。人口減少、少子化、高齢化など、今の日本全体を覆う様々な問題にいち早く直面している過疎地域で、何らかの解決策を示すことができれば、それはこの国の未来に対する処方箋になるはず。だから、一人でも多くの若者に飛び込んできてほしい。自分はその先駆けになりたい。そう強く思うようになっていきました。

その想いが通じ、2013年4月、私は安芸太田町の地域おこし協力隊としてスタートラインに立つことになります。

今回はここまでです。

地域の皆さん、大学生と一緒に運営した雪かきイベント

  

これから協力隊になるあなたへ

年度末が近づき、来年度の協力隊募集をよく見かけるようになりました。この記事を読んでくださった方の中にも、協力隊への応募を検討中の方がいらっしゃるかもしれません。

応募の前に、ぜひもう一度考えてみてください。あなたは、何を成し遂げるために協力隊になりますか?

Writer : 河内佑真(地域活性学会員)