【初級生成AI講座】地域データの収集と活用ー地域の知恵とAIの力をつなぐために(鈴木和浩)(7)

この挿絵はGPT4oで作成

第2章:生成AIの基礎スキル

  1. プロンプトエンジニアリングの基礎
  2. 地域向けプロンプトの作成
  3. 地域データの収集と活用

AIが身近な存在になりつつある現代、地域の課題解決や魅力発信においても、その技術は注目を集めています。なかでも、文章や画像を自動的に作り出す「生成AI」は、少人数の地域組織や自治体でも活用しやすいツールとして期待されています。しかし、AIがその力を十分に発揮するには「材料」となる情報、つまり地域のデータが欠かせません。地域に関する正確で豊富なデータがあればあるほど、AIはその地域らしい回答や提案ができるようになります。本稿では、生成AIを地域のために活かすにはどのようなデータが必要か、どのように集めるのか、そして実際にどう活用されているのかを具体的な事例とともにご紹介します。

地域データとは何か――AIが地域を理解するための「材料」

「地域データ」とは、地域に関するさまざまな情報を指します。これには以下のようなものが含まれます。統計データ(人口、年齢分布、世帯構成など)、経済・産業情報(地元の商業、農業、観光など)、地理情報(施設の場所、交通、環境など)、文化・歴史(伝統行事、方言、地元の物語など)、住民の声やニーズ(アンケート、SNS、地域ブログなど)。AIにとって、これらのデータは「理解の材料」となります。人間が現地の事情を学ぶように、AIもその地域のことを知るためにデータを必要とします。

地域データの集め方――身近な情報が大きな資源に

地域データの収集は、特別な技術がなくても始められます。以下の方法を参考に、地域の情報を集めてみましょう。

公的オープンデータの活用

国や自治体が提供するオープンデータは、信頼性が高く扱いやすい情報源です。たとえば「RESAS(地域経済分析システム)」では、地域の人口、産業構造、観光動向などが可視化されており、誰でも無料で利用できます。

地域住民からの情報収集

アンケート、ワークショップ、インタビューなどを通じて、地域の声を拾い上げることも大切です。数字に表れない日常の感覚や文化的価値は、AIにとって貴重な「学習素材」となります。

SNSやWeb上の情報

SNSの投稿や地域の観光レビュー、ブログなども、現代の地域を映し出す情報源です。ただし、情報の真偽や偏りに注意し、他のデータとあわせて判断することが重要です。

生成AIにどう活用させるか――データから価値を生み出す仕組み

収集した地域データは、次のような方法で生成AIに活用されます。

  • プロンプトによる直接活用

AIに質問をする際に、関連する地域情報を一緒に提示することで、文脈に沿った回答や文章を得ることができます。

  • AIによる検索・抽出連携

あらかじめ地域データをAIのデータベースに登録しておくことで、AIが必要に応じてその情報を参照し、正確な応答を生成できます。

  • AIへの事前学習

AIに地域固有の資料や記事を読み込ませておくことで、その地域に特化した知識を持たせることも可能です。この方法はやや専門的ですが、より精度の高い出力が期待できます。

活用事例――生成AIが地域で果たす役割

ここからは、実際に生成AIが地域でどのように活用されているかを3つの分野に分けてご紹介します。

観光案内チャットボット

札幌市「AIさっぽろ観光コンシェルジュ」:観光客からの質問に多言語で対応するAIチャットボット。観光スポット、交通案内、イベント情報をリアルタイムで提供し、旅行者の利便性を高めています。神奈川県箱根町の観光案内ボット:施設案内や飲食店情報をAIが提供し、観光客の満足度向上に貢献しています。これにより、窓口対応の負担も軽減されています。沖縄県恩納村の対話型観光案内サービス:自然な会話で観光プランや穴場スポットを案内し、外国人観光客にも対応可能なサービスを実現しています。

自治体広報の自動化

東京都新宿区:広報誌の作成をAIが支援。過去の記事や資料をもとに、新しい記事の構成や本文を自動で提案することで、業務の効率化に成功しています。神奈川県鎌倉市:AIによる広報コンテンツの自動生成を導入し、発信力の強化と職員の負担軽減を図っています。秋田県秋田市:Web記事やイベント紹介文をAIが生成し、情報の更新頻度と質を両立しています。

地域産品のプロモーション

北海道の食品メーカー:商品の魅力を伝えるキャッチコピーをAIで作成。ターゲットや用途に応じた多様な表現が可能となり、販売促進に寄与しています。京都府宇治市:地元特産品を紹介する動画の台本やナレーションをAIが自動生成。低コストで高品質なコンテンツ制作を実現しています。福岡県の事業者:地域産品のECサイトで、多言語の商品説明や画像生成をAIにより自動化。海外への販路拡大をサポートしています。

課題と展望――持続的な活用に向けて

生成AIの活用には、多くの可能性がある一方で、以下のような課題も存在します。情報の正確性と更新性の維持、プライバシーと倫理への配慮、地域の主体性と住民参加の重要性。特に、地域の声を丁寧に拾い上げ、それを活用の中に組み込むことが、単なる業務効率化にとどまらない「地域の価値創出」につながります。

生成AIを地域のパートナーに

生成AIは、地域社会の中で新たな価値を生み出す「協力者」となる存在です。そのためには、地域自らがデータを整備し、活用方法を考える姿勢が不可欠です。このエッセイを通して、生成AIと地域データの関係性を理解し、次なる地域の未来に向けた一歩として役立てていただければ幸いです。