商業高校を卒業し就職するつもりだった私が大学院で研究するとは

大池淳一  鳴門教育大学大学院学校教育研究科修士課程1年次生、岡山県立倉敷鷲羽高等学校教諭(商業)

将来は商業教諭という目標を持つ

商業高校に進学し,事務職に就職をしようと考えていた私が,まさか大学院で研究をするとは想像もできませんでした。高校では大学進学を勧められ,言われるがまま山口大学経済学部商業教員養成課程に進学しました。気が付けば「将来は商業教諭」という目標をもつことになり,平成11年に新採用となり,母校での勤務も経験し,現任校である岡山県立倉敷鷲羽高等学校では9年目を終えようとしています。これまで,ソフトテニスの指導に明け暮れていましたが,学科改編による「ビジネス科」の開設を推進していくうちに,地域産業の持続的発展を担う生徒を育成できないだろうかと考えるようになりました。生徒有志を募り,観光PR動画の作成や地域資源の発掘をおこなっていたところ,私に山口大学への進学を導いた高校3年生の担任の先生が,鳴門教育大学大学院を修了したということを知り,そこから私の大学院への挑戦が始まりました。

熱い教師たちの大学院

鳴門教育大学大学院には現職教員を対象とした「遠隔教育プログラム」があり,コロナ禍になる以前からインターネットを活用した「熱い教師たちの大学院」がありました。その存在を知り,銀行で教育ローンを借り,「高校現場で働きながら学ぶ」ことを決意しました。鳴門教育大学大学院学校教育研究科に合格することができ,「持続的な地域産業の発展を担う生徒の育成」という研究テーマを掲げ,研究をスタートすることになりました。しかし,校務と学業の両立,しかも今まで感覚だけで生きてきた私にとって,エビデンスに基づいて何かを語ることなど難しく,5月に参加した先輩方の修士論文構想発表会で現実を突き付けられました。予想どおり,週1回のゼミで研究内容を発表するたびに,周囲からの厳しい質問に答えることができず,「実践」と「研究」は大きく違うものだと知らされ,私が研究だと思っていたことは単なる「実践発表」に過ぎないのだとも言われました。

実践から理論を帰納的に導き出す

そのような中,教育再生実行会議など,多方面で活躍されている指導教官の藤村裕一先生から「実践から理論を帰納的に導き出す」ということを教授していただき,私の目の前が一気に晴れたことを鮮明に記憶しています。入学セレモニーの学長挨拶では,現職教員の修士論文にも関わらず「理論や数字だけで,生き生きとした実践が見えてこない」「演繹的思考が前面に出て,実践における帰納的思考が見えない」「現場でのエピソードが足りない」と言われており,現職教員だからこそできる実践を大切にした研究があるのではないかと考えるようになりました。

ジレンマ克服型商品開発実習の授業設計

現在の研究は入学当初とは少し変わり「多様な価値観を有する社会を生き抜く地域人材を育成するジレンマ克服型商品開発実習に関する研究」というテーマのもと,商業系学科が企業と1対1でおこなっている従来の商品開発実習を,複数の企業同士をマッチングし,板挟みや想定外を経験し,双方の納得解を生み出し商品開発をおこなう「ジレンマ克服型商品開発実習」に関する研究をおこなっています。Society5.0における学校ver.3.0を実現するため,「ジレンマ克服型商品開発実習」によって生徒がどのように変容するか,コミュニケーションスキル評価尺度やエピソード記録によって測定し,多様な価値観を有する社会を生き抜く力を身に付けることができることを実証します。そしてこの学びをした生徒が,いつかは地域産業の持続的な発展を担うようになることを期待しています。まずは修士課程の2年間で「ジレンマ克服型商品開発実習」の授業設計をおこない,その後さらに後期博士課程に進学できるような環境があれば,大学院にそもそも進学した目的である「地域産業の持続的発展を担う生徒の育成」について研究できればと考えています。そのためには地域活性学会の活動を通じて学んでいきたいです。なお,現任校では「こじまっちんぐ」と名付けて実践をしており,愛媛大学主催「社会共創コンテスト」や福知山公立大学主催「田舎力甲子園」では入賞を果たしており,先月には横浜市で開催された「サステナブル・ブランド国際会議2022横浜」に生徒が参加するなど,多方面で評価され,地元紙にも1年間で9回掲載されるなど注目されている実践となっています。

Writer:大池淳一(地域活性学会員)