大阪「ほんまもん」の学び

烏谷 直宏

「天下の台所」の伝統が息づく大阪の地で「ほんまもん」を生かした学びを実践

大阪の食と言えば、天下の台所、食い倒れの街大阪。たこ焼きやお好み焼きなどの「粉もん」が全国的にも有名になっている一方、レトルトカレーやインスタントラーメン、回転ずしなど、大阪発祥の食は意外と多いです。大阪には全国的に食品産業が集積しており、全国各地からの農産物がこの地に集まります。「天下の台所」の伝統が息づく大阪の地で、地元の「ほんまもん」を生かした学びを実践している大阪府立農芸高等学校で首席(主幹教諭:教科「農業」)として5年目、教師生活19年目を迎えようとしております。私個人に関しては山形大学農学部で食糞性コガネムシ等を中心とした生態学を、島根大学大学院生物資源科学研究科ではナミハダニの研究を通して修士(生物資源科学)の学位を取得しました。現在では教員生活を続ける一方、2020年度からは産学連携学会中四国支部の幹事で産学連携の推進を、2016~2018,2021年度からは独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)の専門高校・高等専門学校を対象にした知的財産の保護や権利の活用についての知識や情意、態度を育む取組を支援する「知財力開発校支援事業」のアドバイザーとして委嘱を受けて全国の知財創造教育の支援を行っております。

スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール

勤務先である大阪府立農芸高等学校は、園芸植物の栽培から利用までの全般を学ぶハイテク農芸科、家畜の飼育・繁殖、畜産物の製造加工等を学ぶ資源動物科、食品の製造加工等、食に係る全般について学ぶ食品加工科の3つの学科を有しております。3学科とも科目「総合実習」「課題研究」において、農場・圃場と食品加工場等とを連動させ、生産物や廃棄物等を利用するなど、教育資源の効率的な利用や循環に取り組み、地域資源や地域社会の外部教育力を積極的に活用した実践的な教育を展開しております。2022年度から高等学校でも年次進行で新学習指導要領がはじまるため、社会に開かれた教育課程の重要性が高まっております。本校でも大阪府堺市(美原区)に潜在する教育資源(地域人材や地域課題)と生徒との出会いの場を創出し、持続的な教育活動として発展させる必要があります。一方、地域社会の側面からは「地域創生の潜在力を引き出す」ことも大切です。その意味において、類似性の見られない、都市型の農業高校である本校だからこその存在価値を見出す観点から、2018~2020年度に文部科学省スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(以下、SPH)事業指定校として、学校農場で学ぶ生徒は、農業の専門的な知識・技能の習得のみに留まらず、そこでの体験によって、新しい農業技術や農業資源を創造する主体として力を発揮する教育課程の整備を進めてきました。これらは、学校農場を教育資源として捉えたとき、「『知識・技能の習得を目標とした農場』から『創造性を発露させる機能を持つ農場』へ」と認識を新たにする大きな改革となります。SPH事業を整理した事例研究として論文化しておりますので、ぜひご笑覧ください。

日々の行動や判断が社会づくりにつながる。

教育活動において産学連携を含んだ異業種や世代を超えた交流は、生徒のアイデアを創出する場となり、あるいは農場から生まれる知的財産(生産物を含む)を活用した商品を生み出すきっかけとなり、社会実装を伴うような地域産業の活性化にもつながります。こうした地域社会の潜在資源の活用とは、農場の有機廃棄物を未利用資源と捉えた再資源化によるESD(持続的な開発のための教育)の学びなどに留まらず、学校が立地している地域社会の課題こそが、生徒にとって生きた教育資源であると言えます。また、その課題解決の中での地域産業界との出会いは、生徒にとって高度な専門技術や知識の習得に加え、倫理観の涵養にもつながる、まさに師に巡り合えることです。しかし、何より、日々の学習すべてが知的財産を生み出す知識や技術、ノウハウであることを、学習指導要領でも指摘されている学ぶことの意義を専門教育の中で、生徒たちに感じさせる機会を増やしていくことが大切です。また、多くの人との出会いや企業連携による販売実習・商品化などの実体験を通して、生徒たちには日々の行動や判断が社会づくりにつながることを意識させたいと常に考えております。その一つに、私が顧問をしております知財開発研究同好会では、生徒主体で企業連携に取り組み、農芸レトルト食品を開発・販売しております。それら活動をまとめ、研究発表や学会発表を行い、国公立大学や農業大学校へと各々の進路実現をかなえております。

教員にもJK力が問われる。

生徒に創造的な学習の機会や体験を通じて物事に対する見方・考え方を身に付けさせることは、各教科を学ぶ本質的な意義を捉えることに役立ちます。なぜ学ぶのか、学ぶことで何ができるようになるのか、その意義を明確化する必要があり、教員には専門性に加え、生徒の「気づき」を捉えて、その思索が深まるようファシリテートする力が求められます。また、地域社会との協働・協業によるプロジェクト学習PBLが重要視されることも考えられますので、今後の教員にもJK力が問われるものと考えます。そのため、自分自身も日々の教育実践を学会発表や事例研究として論文化する等、日々精進しているところです。

Writer:烏谷直宏

事例研究
学校と地域社会の教育資源を活用した社会に開かれた教育課程

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsip/18/1/18_1_72/_article/-char/ja/