論文作法の極意「実務研究論文」の 書き方

素案作成 永松俊雄

1.「研究論文」に求められるものとは

一般的な報告書と違い、「研究論文」には次の事項を満たしている必要があります。
(1)新規性:論文の内容に、何らかの新しさ(独自性)があること 。
(2)有効性:論文の内容が社会の発展に何らかの意味で役立つものであること 。
(3)信頼性:論文の内容が理解でき信頼のおけるものであること 。

(1) 「新規性」とは論文のオリジナリティ(独自性)のことです。例えば、新しい地域課題への対応、地域独自の取り組み、成功、失敗要因の解明など、これまで取り上げられていなかった、よくわかっていなかったことを明らかにする、というものです。

(2)「有効 性」とは
本学会誌は、地域の活性化に資することを目的としています。特に、「実務研究論文」では、机上の理論ではなく、地域での取り組みに実際に役立つ情報が含まれている必要があります。

(3)「信頼性」とは
データやヒアリング、実態調査などの事実に基づいて記述してあり、誰が読んでも十分理解でき
ることをいいます。実務家は、確信的直感から詳しい説明なしに書きがちですが、事実にも基づ
く文章、「分かる人にはわかる」ではなく、「誰にでもわかる」文章が基本になります。

2.「事例報告」と 「実務 研究論文 」の違いは?

(1) 「 事例報告」 とは?

地域活性化の取り組みは、①現状・課題の確認 →②解決(実現)手段の検討・立案 →③解決(実現)手段の実行 →④結果・成果の評価、⑤改善( PDCA )の繰り返しですが、「事例報告」は、 PDCAを取りまとめた事業報告、調査報告を言います 。

(i) 地域活性化に携わっている人が、「自分の経験をまとめた」あるいは「 所属する組織が行った取り組みをまとめた」報告書
(ii)単独または複数の地域の取り組み状況を調べて取りまとめた報告書など、実務で言う事業報告書 や 調査報告書と同じ内容です。「事例報告」では、分析・考察の有無は問われません 。

(2)「実務研究論文」とは?
単なる事業報告、調査報告にとどまらず、分析・考察を加えて、他の地域でも、課題解決や目標
実現に役立つ具体的な知識・ノウハウ が含まれているものを言います。

(例)① 分析 ・考察を含まない 。
観光イベント開催にあって、 A , B , C 各商店街いずれも、リーダーが先頭に立って商店街をま
とめてくれたので、うまく開催することができた。
⇒どのようなタイプのリーダーなのか、リーダーが不可欠かどうかはわからない 。
⇒他の地域にとっては「良い リーダーがいていいですね。うらやましい 」で終わる情報。
②実務 に役立つ分析・考察を含む 。
A, B, C 各商店街のリーダーの行動を分析したところ、いずれも、①明確な目標を定める、②
その目標達成のために率先して動く、③賛同してくれる仲間を募り、目標を共有しながら一緒に活動する、という 3項目に集約された。リーダーがいなくても、商店街の役員や自治体職員が①~③ の役割を担えぱ、成功確率が高くなる。
⇒他の地域にとっても「実践で役立つ、助かる」情報。
複数の事例を比較して、共通点や相違点を分析・考察することで、課題解決や目標実現に役立つ具体的な知識・ノウハウ等を明らかにする方法もよく見られます。地域や人物等に特有の事情に左右されない知識・ノウハウを明らかにすることで、他の地位でも用いることができるようになります。

3.「 実務研究論文 」の項目立ては

「序論、本論、結論」が論文の基本構成になりますが、論文の項目立て(見出し)に統一された基準はありません。 見出しの標準形は以下のとおりです。
(1)はじめに(序論)
①背景:研究テーマとして取り上げる地域課題の社会的背景や現状について概略を述べ ます 。
②目的:研究の目的と意義について記述します。

(2 ) 事例(本論)
読者は全く事情を知らないことを念頭に、丁寧な記述を心がけます。
①事例地域の説明
取り上げる地域についての歴史的背景や特性、現状などについて記述します。
②課題の説明
論文で取り上げる地域課題について記述します。
③解決(実現)手段の説明
課題解決や目標達成のために、どのような考えに基づいて取り組みや施策等が考案され、どのような主体、関係者が参加しているのか等を整理して記述します。
④実行プロセスの説明
取り組みや施策等の実施に関する手順や方法が、読者にもわかるように具体的に記述します。
⑤結果・成果の説明

取り組みや施策等の実施結果を書き、課題がどの程度解決したか、地域社会にどのような変化(成果)が生じたのかを記述します。なお、アンケートやヒアリング調査結果の分析を中心とする場合には、必要な範囲で① ⑤ に触れた上で、調査結果とその分析を詳しく書きます 。

(3) 分析・考察(本論)
① 事例を基にした分析・考察
② 事例を基にした現実的・実践的な手法や解決策等の普遍化
事例の分析・考察を通して明らかになった、他の地域にも役立つ知識・ノウハウを記述します。ポイントは、具体的であることです。
〈自治体と住民の連携が必要〉だけでは抽象的過ぎて、実務の役には立ちません。実務で役立つ情
報とは、いつ、とごで、誰が、何を、どのようにすればよいかが具体的にわかる情報のことです。

(4) まとめ(結論)
論文の主なポイントを要約して記述。今後の課題含む。

4.「実務研究論文」「事例報告」 を書く際の注意事項

どの職場でも 文書のルールがあるのと同じで、論文にも書く際の基本 ルールがあります。多くは、実務の報告書と同じですが、一部はより厳格なので注意が必要です。

(1) 文章 等の形式
①「です・ます体」ではなく、「である体」で書く 。
(例)です⇒である 考えます⇒考えられる
②話し 言葉(口語体)は使わない 。
(例)だって⇒なぜなら けど・だけど⇒しかし なので⇒ したがって
③語句の表記、送り仮名を統一する 。
(例)従って・したがって 携帯・ケイタイ 取り扱い・取扱い・取扱第一に・第 1 に
④読点の位置を統一する 。
(例 理由は第 1 に・理由は、第 1 に・理由は、第 1 に 、
⑤全角・半角を統一する。
論文では、数字や英字は、通常半角を使います。
⑥図表について
表- 文字・数字と縦横罫線だけで構成されるもの 。

図-上記以外のもの全て(グラフ、チャート、写真、絵など)。
タイトルは、表は上に、図は下に書く。表、図ごとに通し番号をつけ ます (図 1 〇〇)。
図書や論文等の図を引用する場合には引用元を明記し、自分で作った場合には、著者作成、と記
します。
⑦アンケート
・ヒアリング 調査について
対象者、調査年月日、調査方法について、「3.研究方法」 または註記に記載します。

(2) 記述に関する 注意事項
➀盗用・剽窃の禁止。
他人の著作や研究成果、統計データなどを無断で使用することは厳禁です。引用する場合には、必ず「 」で括り、引用元を明記します。
要約記載する場合も、〇〇( 2020 )『〇〇』の要約記載である旨を註記します。
また、自身の著作・要約や研究成果、統計データなどであっても、公表・公刊されているものに
ついては、同様に引用元を明記します。(自己剽窃の防止)

②「推量表現」 は使わない 。
「推量」とは、全くの想像で推し量ることです。 論文では、必ず根拠が求められるので「推量表
現 」(例:かもしれない、~らしい、のようだ) は使わず、ある事実や情報を基にして推し測る「推定・推察・推測 表現 」を使います 。
例:~と推定 推察・推測 )される、〈根拠となることを前段で述べた上で〉~と考えられる(認
められる、思料される)

③ 疑問形は使わない。
〈わからないことがあったら、調べた上で書く〉
というのが論文の作法です。「問い」を提起するための表現として使用する(例えば:~どのように理解すべきであろうか。こうした疑問に対して本研究では~)のであれば許容されるが、「問い」の記述のみで終わるような書き方は N Gです。
例:どうだろうか、 どうなっているのだろう

④主観的、感情的表現は使わない。
論文は、客観性が求められるので、とんでもないことだ、言語道断である、許せない、好感が持てる、爽快である 、感動・感心した、嘆かわしい、心が痛む、失望・落胆した、不愉快である、呆れた ・・・このような表現はNGです。

⑤事実の単純化、紋切り型に注意する。
根拠なしに断定的に論じることは控えます。例えば、「行政が住民の意見を聞かない場合もある」
とは言えても、「行政は住民の意見を聞かない」とは断定できません。根拠がない限り、断定することは控えます。

⑥学問的知識は、書きたいことを明確に、わかりやすく整理するための ツールとして使う。
複雑な事象をわかりやすく理解、説明する際に、学知は便利なツールなので、使い慣れると便利
です。もちろん、学問上の理論やモデル使わなくても分析、考察ができる場合は、無理に使う必要はありません。 逆に、学知の誤った使い方には注意が必要です。学知には前提となる条件や適切な使い方があり、誤った使い方をしてしまうと、誤った理解や説明、結論を導いてしまうことになります。学知は便利なツールである反面、正しく使うためには正しい理解と使い方への慣れが必要であり、注意が必要です。理解不足のまま無理に使う必要はなく、自信が持てない場合は使用を避けるべきです。

〈実務研究論文の書き方について> https://www.chiiki-kassei.com/img/files/kakikata2.pdf