【夏休み研究】地方創生10年の取組と今後の推進方向(令和6年6月10日)内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局、内閣府地方創生推進事務局

地方創生10年の取組と今後の推進方向、令和6年6月10日、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局、内閣府地方創生推進事務局

本年(2024年)は、まち・ひと・しごと創生法(平成26年法律第136号)が施行され、地方創生の取組が本格的に始まってから10年の節目を迎える。地域が抱える課題は、地域ごとに様々である中、地方創生の推進に当たっては、それぞれの自治体が主体的に行う創意工夫の取組を国が後押しすることを基本とし、国においては、地方創生の4つの柱(地方に仕事をつくる、人の流れをつくる、結婚・出産・子育ての希望をかなえる、魅力的な地域をつくる)に沿った施策をデジタルも活用しながら展開してきたところである。この間、各自治体においては、地域の課題を自ら把握し、その解決に向けて行政と民間、住民等が連携した取組が行われ、暮らしやすさの向上に加え、地域によっては人口増加や、2013年当時の人口推計の値を上回るところもあり、この中には地方創生の取組の成果と言えるものが一定数あると評価できる。しかしながら、国全体で見たときに人口減少や東京圏への一極集中などの大きな流れを変えるには至っておらず、地方が厳しい状況にあることを重く受け止める必要がある。地方創生の取組においては、各自治体がそれぞれに人口増加を目指し、様々な施策を展開してきたが、成果が挙がっているケースも、多くは移住者の増加による「社会増」にとどまっており、地域間での「人口の奪い合い」になっていると指摘されている。もとより、人口減少に歯止めをかけ、東京圏への過度な一極集中を是正するための対策は、我が国全体で戦略的に挑戦すべき課題であり、離島や辺縁地域においては、人口減少が、我が国の領域及び排他的経済水域等の保全等に直接的な影響を及ぼすことになる。こうした危機感も持ちながら「自然減」「社会減」それぞれの要因に応じて適切な対策を講じていくことが必要である。特に、「自然減」の対策については、個々の自治体の努力には限界があることを踏まえる必要がある。「こども未来戦略」に基づく少子化対策や地方への分散を促す国の取組と、地域の仕事づくりや生活インフラの確保といった地域における地方創生の取組が相俟って、より大きな効果が得られると考えられる。さらに、人口減少等が大きな社会課題となっている諸外国の取組も踏まえることが有効であると考えられる。地方創生に関する目標については、その達成状況や社会情勢の変化等を踏まえ、目標年次などを変更しつつ、デジタルの活用も含めて施策の改善も図ってきたところであり、今後も時宜を捉えた対応が求められる。この「地方創生10年の取組と今後の推進方向」は、これまでの地方創生の取組による成果とともに、残された課題と新たな課題及びこれらを踏まえた今後求められる取組の方向を示すものである。小規模な自治体をはじめ、地方創生の取組に悩みを抱える自治体に対し、国によるきめ細かな支援を行いつつ、国民との信頼と対話の中で、地方創生に関する国民的な議論を展開していくことにより、人口減少や東京圏への一極集中等に関する認識を国民の間で広く共有しつつ、これまでの施策の効果等の検証を更に深め、社会課題の解決や、一人ひとりの多様な幸せ(well-being)につながる施策を推進していくことが求められる。

1 地方創生10年の取組・成果

(1)地方創生に関する地域の関係者の意識・行動の高まり
「地方創生」という新たな政策の下で、それぞれの地域が自らの課題を把握し、その解決に向けてあるべき姿を考え、実現に向け、様々な関係者が連携して創意工夫を行う意識が醸成され、地域活性化に向けた様々な取組が実行に移された。さらに、2022年からは、デジタル田園都市国家構想の下、デジタルの徹底活用や従来の取組の改善・強化により地方創生を加速化・深化する取組が進められている。

(2)各自治体による主体的な取組の推進
多くの自治体において、地域課題の解決に向け、国の支援を活用した主体的な取組が進められ、モデルとなる様々な成果が生み出された。
①財政支援の活用
デジタル田園都市国家構想交付金(旧地方創生推進交付金)等を活用し、各自治体においては、地域の実情に応じ、関係省庁による支援等とともに、地域資源等を活かした特色ある取組や拠点の整備が進められた。さらに、人口減少下においても地域課題の解決や住民サービスの維持向上を図るための手法として、地方におけるデジタル実装が進められている。
②人材支援の活用
国や民間の専門人材等を自治体等に派遣し、地方創生を人材面から支援する施策である地方創生人材支援制度、都市部から過疎地域等へ生活の拠点を移した者が地域協力活動により地域活性化に貢献し、その地域への定住・定着を図る施策である地域おこし協力隊、都市部の企業の社員を地域活性化の即戦力として活用する地域活性化起業人等の支援を活用し、各自治体においては、地域の課題発掘や、課題解決に向けた新たな取組が行われ、地域の活性化につながった。
③情報支援の活用
RESAS(地域経済分析システム)、RAIDA(デジタル田園都市国家構想データ分析評価プラットフォーム)等による地域データの分析支援や、地方創生に必要な学びを提供する地方創生カレッジ等を活用し、各自治体において自らの現状を分析・把握し、必要な施策を考え、主体的に行動する動きが広がった。

(3)各自治体による必要な財源の確保
ふるさと納税、企業版ふるさと納税等の制度を活用し、各自治体において、必要な財源を確保し、企業等と連携しながら、それぞれの議会の議論も経て、主体的に施策を推進する動きが広がった。また、企業版ふるさと納税の活用を通じて、単なる資金面での支援にとどまらず、企業のノウハウ・アイディアや人材を活用した、官民連携による新たな地方創生の取組が全国各地で生まれている。

(4)その他、主な地方創生関連事業等の成果
①企業の地方移転等の促進による地方における雇用の創出
民間調査によると、首都圏から地方に本社を移転した企業の数は、2021年より3年連続の転出超過となっている。また、地方に事務所等の特定業務施設を整備する企業等に対し、税額控除等を措置する地方拠点強化税制については、2015年度創設以降、認定件数は698件、雇用創出数は約31,000人となっている。
②政府関係機関の地方移転
地方創生の一環として、政府関係機関の地方移転が進められ、これまで文化庁の京都府への全面移転や、消費者庁の徳島県における「消費者庁新未来創造戦略本部」の設置など、中央省庁7機関、研究・研修機関23機関で取組が進められてきた。その結果、ICT等のデジタル技術の活用により、国の機関としての機能確保とともに、地元雇用の創出や地域関係者との連携による技術開発、研究成果等の社会実装、地域ブランドの創出など、取組を契機とした地方創生上の効果が現れてきている。
③地方大学・産業創生法を踏まえた対応
地方大学・産業創生法に基づく地方大学・地域産業創生交付金を通じて、これまで全国で12の産学官連携による地域の取組を支援しており、例えば、高知県・高知大学では、施設園芸分野におけるAIやIoT等の最先端技術を活用したデータ駆動型農業の取組や、島根県・島根大学では、地域に伝わる「たたら」製鉄を踏まえた先端金属材料拠点の創出の取組が産学官連携等により進められるなど、地域における大学の振興及び若者の雇用創出に向けた取組が具体化している。また、東京23区内の学部収容定員の増加抑制については、同法により、2018年から10年間の時限措置として導入されている。なお、産業界のニーズが高いデジタル人材育成に関しては、一定の要件の下、限定的な例外措置を2023年6月に設けている。
④プロフェッショナル人材事業・先導的人材マッチング事業
地域企業の生産性向上やデジタル実装に資するよう、プロフェッショナル人材事業・先導的人材マッチング事業を通じて、地域企業等に対するハイレベル人材のマッチングを進めており、これまで34,000件超のマッチング、うち副業・兼業の形態で7,500件超のマッチングといった成果を挙げている。

(5)地方移住への関心の高まり、移住者数の増加
各自治体における地域の魅力発信、地方創生テレワークを含めたテレワークの普及により、多様な働き方やライフスタイルが可能となり、二地域居住を含め、関係人口への関心も高まる中、地方への移住促進に取り組む自治体が増加している。
また、移住の相談件数も増加傾向にあり、国の移住支援事業が順次拡充される中、これを活用した地方への移住者数も年々増加しており、2023年度は約7,800名となっている。

(6)人口に係る一定の成果
各自治体がアイデアを出しながら、国の様々な支援を組み合わせて取り組んだ結果、出生率の向上、出生者数の増加や、他地域からの転入が増加(社会増)した地域も出てきているなど、一定の成果が挙がっている。
こうした自治体における取組の特徴としては、①地域資源を活用した新たな産業の創出や企業誘致など雇用創出に取り組んでいる、②都市部からの移住や就業の促進に取り組んでいる、③地域における結婚、出産、子育ての支援に取り組んでいる、④生活利便性の向上や地域の魅力発信に取り組んでいる、などが挙げられる。また、これらの取組にデジタルを活用し成果を挙げているケースもみられる。その中で、必ずしも交通アクセス等が十分でない自治体においても、地域資源等を最大限活用した新たな産業の創出や企業誘致、移住支援、子育て支援などで創意工夫による取組を推進し、成果を挙げているものもある。

2 残された課題、新たな課題と今後求められる取組方向

(1)東京圏への過度な一極集中への対応
【課題】
東京圏への過度な一極集中については、まち・ひと・しごと創生法が公布・施行された2014年における東京圏への転入超過数は約10.9万人であったが、その後、東京圏への人の流れが強まり、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年には約14.6万人となった。新型コロナウイルス感染症の影響もあって、2020年には約9.8万人、2021年には約8万人まで減少したが、2022年は約9.4万人、2023年は約11.5万人となるなど、東京圏への人の流れが再び強まりつつある。特に、進学や就職を契機として10代後半及び20代の若者の転入超過が続いており、その傾向は男性よりも女性において顕著である。また、東京都の転入超過数を道府県・市町村別にみると、約5分の1が大阪府・愛知県からの転入超過となっており、半数以上が地方中枢中核都市を抱える道府県からの転入超過となっている。このため、こうした都市において、東京圏への人口流出を抑制する役割(いわゆる人口のダム機能)を担うことが期待される。さらに、東京圏は、住宅価格や賃料などが高く、通勤時間が長いなど、固有の課題を抱えているほか、大規模災害による災害リスクの可能性も指摘されている。

【取組方向】
地方への人の流れを力強いものにするため、これまで進めてきた地方移住、企業の地方移転、地方への国内投資の促進、地方大学・高校の魅力向上等については一層効果的に取り組むとともに、テレワークを活用して地方の課題解決を図る官民共創の取組も充実させる必要がある。さらに、東京圏への一極集中の主な要因である女性・若者に着目し、女性・若者の人生設計において地方での生活が選択されるよう、女性・若者・子育て世代にとって魅力ある雇用の創出や、結婚・出産や子育て環境の充実、アンコンシャス・バイアス(性別による無意識の思い込み)の解消等、女性・若者にとって魅力的な、働きやすい、暮らしやすい地域づくりに向けた検討を女性・若者の視点から行っていく必要がある。その他、男女間・地域間の賃金格差など、東京圏への過度な一極集中をもたらし得る諸要因を踏まえた検討を進めていく必要がある。
くわえて、東京圏が抱える固有の課題を解決するためにも、地方への人口の還流を進めていくことで、都市と地方がそれぞれの良さを発揮しつつ、相互に連携しながら、我が国経済社会の活性化につなげていく必要がある。例えば、東京圏だけでなく、中枢中核都市等におけるゲートウェイ機能を向上させることで、海外から観光客や高度人材を呼び込む機能やルートを多様化させ、人やモノの流れを全国各地に行きわたらせる必要がある。また、防災・減災、国土強靱じん化の取組の強化、分散型国づくり等との連携を図っていく必要がある。

(2)少子化への対応
【課題】
2023年に生まれたこどもの数は72万7,277人であり、こどもの数はピーク時から3分の1以下にまで減少した。また、2023年の合計特殊出生率は、1.20と過去最低となっている2。くわえて、少子化のスピードも加速しており、出生数が初めて100万人を割り込んだのは2016年だったが、2019年に90万人、2022年に80万人を割り込んだ3。このトレンドが続けば、2060年近くには50万人を割ってしまうとの推計もある4。その中で、例えば、20代から30代の日本人未婚者については、男性・女性ともに、一都三県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)、愛知県、大阪府、福岡県という大都市圏において、全国の5割以上を占める状況にある。
【取組方向】
少子化対策については、こども家庭庁を中心に関係府省庁が連携して取組を進める必要がある。特に、若い男性・女性は今後減少していくことが見通されていることから、「こども未来戦略」における「加速化プラン」に基づき、結婚やこどもを持ちたい希望をかなえるための政策を、特に未婚者を多く抱える大都市も含め、スピード感をもって実行していく必要がある。あわせて、社会全体でこども・子育て世帯を応援していく気運を高めていくための社会の意識醸成を車の両輪として、官民連携の下、取り組む必要がある。

(3)地域の生産年齢人口の減少への対応
【課題】
我が国全体で生産年齢人口の減少が急速に進む中、あらゆる産業において労働力の不足が顕在化しており、こうした状況が地方だけでなく、我が国の経済成長にも影響することが懸念されている。また、中小企業の発展に資する経営支援人材やデジタル人材は、概して東京圏に集中しており、地方で不足している一方、こうした高度人材を常駐の形で地方において確保することは、人件費の面からも現実的に難しい状況にあることも少なくない。
【取組方向】
地方における女性や高齢者等の一層の社会参画が可能となるよう、仕事と子育ての両立が可能な働き方の確立、アンコンシャス・バイアスの解消、高齢者や障害者も安心して働くことができる雇用環境の整備や、デジタルの活用などを進めていく必要がある。また、現役世代が健康を維持しながら、働き続けられる環境づくりにも取り組む必要がある。さらに、国・都道府県・市町村等が一層連携した自治体DXの推進や、特定分野に強みを持つ地方大学・高専等による産学官連携の推進による生産性の向上や、都市部のデジタル人材等の地域企業における副業・兼業形態での活用促進を含めたデジタル人材の育成・確保、地方移住や二地域居住を契機に、一人が複数の仕事を掛け持ちするマルチワーク、さらには多様性のある共生社会の実現に向けた検討など、地方における人材確保を進める必要がある。

(4)地域資源を生かし、付加価値を高める産業・事業の創出
【課題】
我が国には、美しい景観、おいしい水、温泉、歴史建造物、文化・芸術、伝統的な産業や高品質な農林水産物・食品など、海外にはない固有の地域資源が全国各地に存在しており、国内のみならず、海外からも我が国の魅力の源泉として注目されつつある。一方、こうした地域資源の維持管理や、地域資源を活用した産業の担い手は、概して生産者や中小企業が多く、こうした者の努力だけで、海外を含めた消費者ニーズの把握や、それに応じたマーケットインの対応までの幅広い取組を適切に進めることは難しい。このため、これらの地域資源を多様なニーズを踏まえた形で活用し、地域の付加価値を高める産業・事業の創出や、そのために必要なサポートなど、海外の人々にも魅力となる新たな地方創生の取組が求められている。
【取組方向】
産学官が連携しつつ、多様なニーズを踏まえた地域資源の掘り起こし、組み合わせと活用、また、これらに必要な生産者や中小企業に対するサポートなどを行いつつ、景観や交通ルートの整備や、地域の農林水産業や産業の活性化、観光等に資する拠点施設等の整備を一体的に進めるとともに、インバウンドを含めた観光振興の強化、起業促進等による地域の雇用創出、イノベーションの創出やスタートアップ等の取組を進めることで、地域における稼ぐ力の向上、地域経済の内発的な活性化を図っていく必要がある。さらに、海外の企業等にとって、我が国の地方に存在する広大な土地、豊富な水資源、澄んだ空気などの地域資源は企業等の恵まれた立地条件にもなっており、海外製造業を含めた国内投資の促進に向け、関連インフラを含めた総合的な支援などを講じつつ、地域における高付加価値産業を生み出していく必要がある。

(5)地域における日常生活の持続可能性の低下などへの対応
【課題】
中山間地域等を中心に、人口減少・高齢化が急激に進むと見込まれる中、交通、買物、医療など、日常生活に必要なサービスを維持できなくなる地域が顕在化しており、今後ますます深刻化することが懸念される。地域によっては、こうした事態に危機感を持つ自治体が事業者等と連携し、デジタルも活用しつつ、交通支援、買物支援等を行うなど、持続可能な社会づくりに向けた独自の取組が始まっている。
【取組方向】
人口減少・高齢化が一層進む事態を見据え、デジタルの活用や官民連携により、日常生活に必要なインフラ・サービス(交通支援、買物支援、オンライン診療等)の強化を進めるとともに、「小さな拠点」や「地域生活圏」の形成、「生涯活躍のまち」の構築など、生活拠点の多機能化や地域間での共同利用、広域的な役割分担、地域コミュニティの強化などを進める必要がある。その際、利用者起点で我が国の行財政のあり方を見直し、人口減少下においてもデジタルを最大限活用することで公共サービスの維持・向上と地域経済の活性化を図るデジタル行財政改革との十分な連携が重要である。

(6)都市部と地方との連携機会の拡大
【課題】
現在、こどもの3人に1人が東京圏で生まれている中、自然や農林水産業など、地方の実情に触れ合う機会を持たないこどもが増加している。一方、若者を中心に地方移住への関心が高まり、豊かな自然の中でゆとりある生活を求める「田園回帰」の流れに加えて、SNSなどデジタルを使ったコミュニケーション手段が広く普及する中、人々が出身地や居住地を超えて、あらゆる地域と気軽につながりを持ち、必ずしも定住を伴わない形も含め、地域の発展に積極的に貢献できる可能性が広がっている。
【取組方向】
こどもが地方の豊かな自然や農林水産業に触れ合う機会を創出するため、都市部のこどもの地方への留学や、農山漁村等において様々な体験活動を行う機会を積極的に作り出していく必要がある。さらに、地方における定住人口の増加に向けた取組や地域資源を活用した拠点をベースとした交流人口の増加に向けた取組に加えて、多様な主体の参画による関係人口の増加に向けた取組をデジタルも活用しつつ進めることで、都市部の人々が普段から地方を身近に感じ、積極的に行動する機運を高めていく必要がある。

(7)大規模災害被害からの創造的復興に向けた貢献
【課題】
能登半島地震など大規模災害被害からの創造的復興を図るためには、単に被災前の姿への復旧にとどまらず、地域が置かれている地理的・社会的・経済的条件や、人口減少・高齢化など直面する社会課題に対処することができる地域づくりを進めることが求められる。
【取組方向】
自治体が地域住民の声を聞きながら、地域の将来像を考え、実行していくことを基本としつつ、政府としても、将来を見据えた持続可能性と活力のある地域づくりに向け、地域の課題・悩みに寄り添いつつ、政策間連携・地域間連携の観点から積極的な役割を果たしていく必要がある。また、能登半島の被災地においては、デジタルライフラインの整備など、デジタルの力も最大限活用した創造的復興を進めていく必要がある。

(8)地方創生の取組に悩みを抱える自治体へのきめ細やかな支援
【課題】
地方創生から10年が経ち、国の支援も活用しつつ、主体的な取組を行い、モデル的な成果を挙げる自治体、得られた知見・経験を生かし、更なる取組にチャレンジする自治体が増える一方、十分な成果を挙げられず、取組が停滞し、悩みを抱える自治体も見られる。小規模な自治体においては、職員数が限られているなどの事情があることから、こうした自治体に対して、国によるきめ細やかな支援が求められている。
【取組方向】
今後、地方創生の推進に当たっては、政策間連携・地域間連携がますます重要となる中、オンラインも活用しながら自治体への人材支援を進めるとともに、地方創生SDGs未来都市の取組など優れた自治体が持つ知見・経験を共有し、地方創生に関する悩み・困りごとへの対処を適切に行うための自治体間ネットワークを構築していく必要がある。こうした自治体間ネットワークを通じて、デジタルも活用しながら広域連携の下で地方創生に取り組むことは、各自治体による地方創生の取組が、周辺地域との人口の奪い合いという結果を招かないためにも重要である。また、近年増加している地域を元気にする起業家との連携など、民間の知見の活用や官民連携を積極的に進めていく必要がある。
特に、小規模な自治体をはじめ、伴走支援を必要とする自治体に対し、国の地方支分部局による対応を含め、関係府省庁が連携しながら、地方創生に関する現場ニーズの把握や課題解決に向けたサポートを地域に寄り添って行う取組を一層推進していく必要がある。

(9)地方創生の取組を加速化・深化するデジタル活用の更なる拡大
【課題】
行政サービスや各種生活関連サービスの効率化・利便性の向上等につながる各自治体におけるデジタル実装については、これに取り組む自治体が増加する一方、小規模自治体を中心にデジタル実装への取組が立ち遅れている地域も見られる。また、デジタルの持つ地理的・時間的・空間的な距離を乗り越え、様々な情報が集約・共有することができる特性を活かした地方創生を進めていく必要がある。
【取組方向】
人口の減少・高齢化が進む中、将来にわたって生活に必要なインフラ・サービスを維持・向上していくためにも、デジタル実装に取り組む自治体の拡大を加速化するとともに、それぞれの自治体における取組の質的向上を目指す必要がある。その際には、国と地方がデジタル実装における役割を適切に分担し、地方創生を強力に進めていくためにも、国は各自治体に共通するサービスを提供し、自治体はそれを使う、いわば作り込みから使いこなしに加え、デジタル実装の優良事例を掘り起こし、サービス/システムをカタログ化することで発注コスト低減・横展開を図っていくことが重要である。この際、デジタル行財政改革会議で議論を進めている、共通的なシステムの実装に一層重点化した支援を含めた効果的な支援の在り方についても検討が必要である。
また、デジタルの活用については、効率性や利便性の向上といった観点だけでなく、例えば、環境や循環経済などサステナビリティに配慮した取組やその効果の可視化による価値の創造や、文字の音声変換、手話の遠隔通訳など高齢者、障害者等に優しいコミュニケーション支援への活用などの新たな観点からも力を入れていく必要がある。

(10)地域・社会課題の解決に向けた規制・制度改革
【課題】
人口減少・高齢化が進み、各地域において様々な地域・社会課題が顕在化する中、課題解決に資する新たなサービスの実装等に向けては、地域の実情に合わない現行の規制・制度がその弊害となっている場合がある。一方、法令等の改正を行わずとも、規制・制度の解釈が明確化され、周知されたことで、現場が抱える課題や悩みの解消につながったケースも出ている。
【取組方向】
デジタル田園都市国家構想の先導役であるスーパーシティ・デジタル田園健康特区を含め、先行的な規制・制度改革を通じたサービス実装に取り組む国家戦略特区の取組を推進するとともに、その成果の全国展開を一層図る必要がある。また、デジタル田園健康特区の取組を他の分野にも拡大し、地理的に離れた自治体が連携して共通の課題解決に取り組む「連携“絆”特区」を推進することで、規制・制度改革を通じた地域・社会課題の解決を更に後押しする必要がある。

3 最後に

これまで続いてきた我が国の人口減少や東京圏への一極集中の流れを変えることは容易ではなく、地方創生の取組についても望ましい成果が出るまでに時間を要するものがある。そうした中にあっても、人口減少に歯止めをかけ、東京圏への過度な一極集中を是正する目標の実現に向け、諸外国の取組も参考にしながら、我が国全体で戦略的に挑戦するとともに、人口減少下においても、希望を持って住み続けることができる持続可能な地域づくりを進めるため、従来の取組を超える新たな発想に基づく施策を検討・実行していくことで、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現する社会を目指すことが重要である。
「地方創生10年の取組と今後の推進方向」をきっかけとして、今後、自治体、有識者をはじめ、国民との信頼と対話の中で、地方創生の推進に関する国民的な議論を展開し、人口減少や東京圏への一極集中等に関する認識を国民の間で広く共有しつつ、施策の検証や優良事例の横展開などを推進することで、それぞれの自治体が主体的に行う地方創生の取組を強力に後押ししていく。
以 上