BBC×関東学院六浦高等学校GLEクラス共同プロジェクト発表会報告

優勝の表彰後、学生たちと株式会社前場技研 前場強社長がチームをアピール

令和5年1月21日(土)、13:30~16:30、京浜急行線天空橋駅直結の羽田イノベーションシティPiO PARKにて「BBC×関東学院六浦高等学校GLEクラス共同プロジェクト発表会」が開催された。筆者はこの報告会で審査員として関わらせて頂いた。中小企業の後継者問題を高校生が解決への一助を提案するという大変興味深いイベントだったので、その模様をレポーㇳさせて頂く(奥山 睦)。

参加企業は6社、担当は以下の通りだった。

株式会社宮澤精機 代表取締役 BBC代表 宮澤幸弘https://www.miyazawaseiki.jp/

有限会社甲信電化 代表取締役 中楯久之http://www.koushindenka.jp/index.html

有限会社磐梯工業 専務取締役 渡辺崇記http://bandai-kg.com/

株式会社玉川パイプ 代表取締役 玉川大輔https://tamagawa-pipe.com/

有限会社内山研磨工業所 代表取締役 内山和広https://www.uk-gansin.co.jp/

株式会社前場技研 代表取締役 前場 強http://www.m-giken.com

尚、審査員は以下の通りである。

有限会社 安久工機 常務取締役 田中 宙http://www.yasuhisa.co.jp/

株式会社 ウイル 代表取締役 奥山 睦https://www.officewill.co.jp/

東京都立練馬工業高等学校 校長 佐々木 哲https://www.metro.ed.jp/nerimakogyo-h/

慶應義塾大学 経済学部 准教授 三嶋恒平https://k-ris.keio.ac.jp/html/100000542_ja.html

関東学院六浦中学校・高等学校関東学院六浦小学校校長 黒畑 勝男https://www.kgm.ed.jp/

BBCとGLEクラスの特徴

BBCとは大田区異業種交流グループの1つであり、BACK to BORN CLUB「初心に帰る」を合言葉に、1997年に結成された。当時、財団法人大田区産業振興協会(現公益財団法人)主催の「後継者育成セミナー」の受講者が、「このまま別れるのはもったいない」と感じ、スタートしたという。現在50名以上の会員を抱え、月1回の定例会を実施し、外部講師を招いた勉強会や、他団体との交流会、経営計画の分科会活動、家族も含めたレクリエーションやゴルフ、旅行などのイベントも行っている。また、今では当たり前だが、設立当初より、インターネットの活用に注目し、参加資格のひとつに「メールアドレスを持っていること」ということがあった。メーリングリストでは活発に意見交換を行い、投稿数は月200件を越えることもある。対して関東学院六浦高等学校GLE(Global Learning through English)クラスは、「英語力」「日本語で書く力」「探究力」の3つを柱にし、一般クラスとは異なる独自のカリキュラムで3年間学ぶ。科目の約半分はこの3つの力にフォーカスしたGLEクラスのみの独自設置科目だ。「ほとんどの授業がプロジェクト型学習で実施され、学びが教室の中でとどまらないよう、工夫をしています。その中でも探究力では実社会の課題に大人や大学院生、大学生、他校の高校生などと一緒に取り組むということをコンセプトに実施をしています。高校生であっても、社会の中で大きな役割を持っている一人の責任ある人間だということに気づき、高校生なりに社会を変えられるということを体感してもらえるようにしています。」とGLEコースプロジェクト主任の筒井美帆氏は語る。

日経記事への投稿の課題が両者の接点に

そもそもBBCとGLEクラスがどこで接点を持ったのか―――。BBCで今回のプロジェクトの担当だった株式会社前場技研代表取締役の前場強氏はこう語る。「現在、高校2年生の娘がGLEクラスの一期生でした。2021年6月に日経未来面に対して投稿するという課題が出ました。『中小企業の何をどう引き継ぐ?』https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH247JH0U1A520C2000000/という大同生命保険代表取締役の北原睦郎氏の記事でした。北原氏は末尾で、中小企業にも『不易流行』(いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていくこと)があるはずです。世の中の変化に対し中小企業はどのようにチャレンジし、何を変え、何を残すべきなのか。読者の皆さん、たくさんのアイデアをお寄せ下さい、と結んでありました。家庭の中で、娘に私の経験からの話をした記憶があります。」その時に、BBCにもメーリングリストで高校生がとても興味深い課題をやっている事を伝えた。会員からは、学生たちから提案された内容を見たいという意見もあり、担当の先生にBBCを紹介すると共に、学生たちの投稿内容を見せてもらったという。これが一番初めのきっかけだった。学生たちの24の提案の中からいくつかを紹介する。

中小企業で引き継ぐべきものは経営者の思いだ。近年、中小企業がどんどん減っていってるのだが、まず大中小関係なく企業というのは経営者が思いを込めてこそ成り立つものだ。その意思を引き継がない限り、企業という意味はなくなってしまう。それでは、過去の経営者が苦労してやってきたことが意味のないことになってしまうのだ。企業の大きさなんて関係ない、どんな企業にも経営者が込めている思いというのはある。なぜなら、この無数の企業が日本の社会を支えている存在だからだ。企業の世界というのは下剋上だ。中小企業がどんどん減っていっているこの時代、新たな経営者が過去の経営者の思いを引き継いでいくことでこの時代の中を生き残ることができる。

 

中小企業のもつ高度の技術やアイデアを伝承していくには、後継者不足という過酷な問題を解決していかなければならない。まずは、企業内での人間関係が大切だと考える。企業内での経営者や社員、上司や部下での間の距離感が近ければ近いほど企業としてあらゆるメリットが生まれる。経営者と社員の人間関係が良好であれば、社員が日々感じる息苦しさやストレスを社員同士だけでなく、上司たちとも分かり合え、信頼関係が生まれる。後継者不足が改善されない限り、経営者の高齢化は少しずつ進んでいき、日本の企業は世界の企業に突き離されてゆく。経営者と社員の年の差が大きいことで距離感を縮めることがより難しくなり、信頼関係もより薄くなってしまう。これから少しずつこの問題を改善するにあたり、若い世代の人に受け継がせることで、より将来性のある未来を切り開いていけることができる。

 

近代の日本の中小企業は減少しつつある。その理由として3つ挙げれられる。企業者が減ってきている、人手不足、後継者不足がいないという点が挙げられる、これはすべて日本の少子高齢化が進んできているからだと推測する。そして中小企業が減ってきている今の日本ではどのようにしたら中小企業を引き継いくかが問題になっている。中小企業は大企業とは違って一つのものに特化しているのだと私は思う。昔東京の大田区に住んでいたときに工場見学をしたことがある。そこではロケットの部品を特化して作っていた。しかし、今の日本は中小企業が減りそのあるものに特化した技術が失われつつある。この技術をどう引き継ぐのかと考えたときに私が思ったのはこの特化した技術を世界へ発信すること、また大企業と協力しその技術を有名にすること。なぜなら有名になることでこの技術を残したい、あるいは継承したいといった人が出てくると思うからだ。

 

それから約8か月後の2022年2月にGLEクラスからBBCと交流をしたいとの連絡を受けて、両者の関りが始まった。GLEクラスの先生方にBBCの定例会へ来て頂き説明を受けた。その時会員内では、「俺たち日本語しかできないけどいいの?」等の反応もあった。このクラスは確かに英語に特化したクラスではあるが、「探究」という授業で学校外の人達と出会い、関わる事も学びの一つという事を聞いて「なかなか面白い事をやっている」という声が聞こえてきたという。

キックオフを経て、メールでの意見交換、工場見学へ

学生たちが工場見学に来る2週間くらい前に学校でキックオフを行い、BBCと学生たちとの本格的な交流が始まった。お互いにメールでの意見交換を行いながら、工場見学の日を迎えた。学生たちが工場見学に来た時の感想を前場氏に聞いた。「この子達は、本当に町工場を知らないのだな、と思いました。学生たちはPCは使っているけれど、CADやCAMの事は知らない。動いている機械を見る目は、自分が幼い時に父親が機械を操作して物づくりをしている姿を見ているような目でした。」学生たちからは会社のPR動画の提案等が上がっていたが、「この学生たちに本当に会社のPR動画が作れるのかな?」というのが、学生たちが帰った後の率直な感想だったという。しかし、報告会ではそれぞれ各社の課題解決の一助になるような提案がなされ、学生たちも相当量の勉強と努力をしたのだと感じられた。一方、筒井氏はBBCとの交流を通した学生たちの変化についてこう語る。「社長と一線を引いていた学生たちが、だんだんと一緒に考える「仲間」ととらえてきたように感じました。学生同士で話し合いをするとき、最初は『〇〇社長』と呼んでいたところ、段々と『〇〇さん』に変わっていきました。」対話を重ねながら一緒にミッションに取り組むことで、「大人と子供」「社長と学生」「社員と部外者」という立場の差を乗り越え、何かを克服しようとする仲間という意識に変わったように見受けられたという。今後の日本においては、世代や立場を超えて、課題解決をしていかなければいけないことも多く、このように課題を「自分事」として捉え、立場の違う人と一緒に越境学習をして解決策を模索できたことの意味は大きかったのではないだろうか。BBCとGLEクラスのプロジェクトは、以下の図のように高校と中小企業の「共創」への取り組みであると解釈できる。

伸び伸び明るく報告会に臨んだ学生たち

報告会当日は、「会場が学校外であったこと、GLEクラスの関係者以外が多かったのですが、学生たちは普段の倍の力が発揮できるほどに成長していることに驚きました。おそらく、ここまでしっかりと課題に向き合ってきたことで、自信が生まれ、あのような堂々とした態度につながったのかなと思っています。」と筒井氏。特に動画作成については、非常に独創的で枠にとらわれない提案が多く、筆者も大変興味深く見せて頂いた。ただし、提案に対するエビデンスがまだ希薄なものもあり、それを改善していくと更に良いものができると感じた。尚、後述の通り各賞にはBBC会員による製品等が賞品として授与されたのも特筆に値するだろう。参加企業の有限会社内山研磨工業所では、早速学生たちが作った動画を自社サイトでリンクして紹介している。https://www.uk-gansin.co.jp/20230202/

前場氏は「癖のある町工場の経営者の方々を相手にするのは、先生方も大変ご苦労されたことと思います。学生たちだけを経験させるのではなく、参加企業へも貴重な経験をさせてくださいました。すぐに実利益は出ないかもしれない、結果が出るまで相当な時間が掛かるかもしれない。それでも、学校と企業で「WIN-WIN」になれるように目配りをされてきたことに感謝します。」と語る。図の通り中小企業と高校・学生が個をこえて共創を生み出すために、このプロジェクトで初めの一歩を踏み出すことができた。これを契機に持続可能なプログラムに育てていき、中小企業の後継者問題を解決する一助になることを切に望みたい。

「BBC×関東学院六浦高等学校GLEクラス共同プロジェクト発表会」に参加した学生、高校関係者、BBC会員、審査員一同

 

【審査結果一覧】

優勝:株式会社前場技研チーム

(賞品:有限会社安藤工業所社製 アルミ製金色名刺)

準優勝(BBC賞):株式会社玉川パイプチーム

(賞品:有限会社安藤工業所社製アルミ製 銀色名刺)

奥山賞:有限会社内山研磨工業所チーム

(賞品:奥山睦著書『メイド・イン・大田区 ものづくり、ITに出会う』)

オーディエンス賞(観客賞)
1位:有限会社甲信電化チーム
(賞品:株式会社玉川パイプ社製 スマホスタンド)

2位:有限会社磐梯工業チーム

(賞品:株式会社エポゾール社製 ラバーコインケース)

3位:株式会社宮澤精機チーム

(賞品:有限会社磐梯工業社製 タッチレスツール)

優勝賞品の金色名刺。準優勝は銀色名刺。優勝者、準優勝者の各自の氏名が入る

奥山賞

オーディエンス賞1位賞品

オーディエンス賞2位賞品


オーディエンス賞3位賞品

Writer:奥山 睦