よそものだからできることを考える

稲葉久之(フリーランス・ファシリテーター)地域活性学会東海支部名古屋支所長

Website http://hisa-inaba.blog.jp/

「参加型開発」-外部者の役割とは?

小学生のときに起こった湾岸戦争がきっかけで世界や国際協力に関心を持ち、大学では国際開発学について学びました。関心を持ったテーマが「参加型開発」。ここでは「住民を開発プロジェクトに参加させる」のではなく「外部者(開発ワーカー)が、どう住民の暮らしに参加するか?」「人々のエンパワメントのために外部者はどうあるべきか?」が議論されていました。オピニオン・リーダーの1人、ロバート・チェンバースは著書のなかで「専門家は主催者、触媒、そしてファシリテーターとしての役割を果たすこと」(ロバート・チェンバース『参加型開発と国際協力』明石書店、2000、P.260)と示しています。これが私と「ファシリテーター」との出会いです。その後、国際協力におけるファシリテーターのモデルとしてブラジル人教育学者パウロ・フレイレに注目し、卒業論文を執筆しました。

青年海外協力隊へ。帰国後、ファシリテーションを深めるため大学院へ

大学卒業後、3年間の社会人経験を経て青年海外協力隊に参加。派遣先は西アフリカのセネガル共和国。村落を巡回しながら、村人と共に生活改善や収入向上の活動を行うことが私に課された業務でした。大学で学んできた「参加型開発」を実践する機会を得た私は、自分なりのファシリテーションを意識しながら2年間の任期を過ごしました。

村人と改良かまどづくり(セネガル)

理想的な姿はあっても、現実はそう簡単にはいきません。小さな集落では村長をトップとしたヒエラルキーが存在し、女性よりも男性の方が発言権を持っています。複数の部族が1つの集落を形成している場合、多数派の部族の声が大きくなりがちです。そもそも文化も価値観も全く違う、始めのころは言葉も(現地では公用語のフランス語を話せる村人はごく少数なので、私が現地語を習得しました)ほとんど話せない私に何が出来るのでしょうか?「外国人=援助」という認識が村落にも浸透していたので、「井戸が欲しい」「学校を建ててほしい」と要求されることも多く、そんななかで少しずつ村人との関係を築きながら、集落の課題解決に向けた取り組みをはじめました。チェンバースは、外部者のありようとして、次のように語っています。「ぶらぶら歩き、急がない方が良い。そして注意をはらい、耳をすまし、良く見て、邪魔をしないことである。「人々はできるのだから」と確信を持ち、その確信を繰り返し相手に伝えよう。そうすれば地域住民は、活動を自分たちで始めることが出来る」(チェンバース:前掲:Pp.316-317)。私も、この言葉に倣い、村人一人ひとりとの関係づくりをしながら、そこで耳にするつぶやきから活動を提案していきました。青年海外協力隊から帰国した私は、ファシリテーションについて更に深めたいと考え、南山大学大学院人間文化研究科教育ファシリテーション専攻に進学しました。大学院ではファシリテーションの礎となっている心理学や教育学について学び、また実践型の講義のなかでファシリテーターとしてのありようやかかわり方について先生や他の院生からのフィードバックを受けながら理解を深めていきました。

国内、海外の現場経験からフリーランスのファシリテーターへ

大学院を卒業した後、国際協力NGOの職員としてアフリカで3年、また国内のまちづくりNPOで4年間働きました。セネガルで活動をしていたときに「日本では地域課題を誰が、どのように解決しているのだろうか?」に疑問を持ったことがNPOで働くきっかけでしたが、実際に働いてみるとテーマの違いはあれ、ヒエラルキーや人間関係が影響して議論が出来ない/進まない、合意形成が出来ず対立が生まれる、など現場で起こることは日本とアフリカで違いがないことに気がつきました。同時に、私のファシリテーターとしての役割は国内のまちづくりでも通用するという確信を得ることが出来ました。2015年から地方創生の取り組みが自治体ごとに行われるようになり、ファシリテーターとしてのお声かけが増えていったことから、独立し、フリーランスのファシリテーターとして活動をするようになりました。

プロジェクト参加者の農民にインタビュー(ブルキナファソ)

災害時の避難経路や要介護者への対応について話し合う

ファシリテーションを多くの人に知っていただきたい

現在は主に行政や大学の仕事を請け、ワークショップの企画や運営、ファシリテーションの研修などを行っています。また大学の非常勤講師としてまちづくりやファシリテーション、ワークショップデザインなどの講義を担当しています。理想的な姿は「誰もがファシリテーションを理解して場に参加できること」です。そうすればファシリテーターがいなくとも、対話的・創発的な場が生まれ、よりよい地域づくりが進んでいくと思います。そのために、これからも多くの人にファシリテーションを伝えていきたいと思います。

自然のなかで自らの感性に気づく

Writer:稲葉久之(フリーランス・ファシリテーター)