【地方消滅2を読む】自立持続可能性自治体、ブラックホール型自治体リストから見えてくるもの(1)

いずれみな消滅可能性自治体になる

地方消滅2(中公新書)を購入しました。本の冒頭で「新たに消滅可能性自治体に該当した99自治体99」のリストが出てきます。地方消滅が出版された当時、高知県本山町に赴任した経験から、嶺北地域でただ消滅可能性自治体ではなかった本山町に安堵しました。それはいち早く10人の地域おこし協力隊を入れ、それで効果が出たと喜んでいたものです。しかし藤井浩先生の「田園回帰1%戦略」が出て、人口4000人の本山町では毎年40人の移住者が必要と分かり、それは無理だと考えていました。今回の本で本山町が新たに消滅可能性自治体になったことは当然の結果と思います。新たに消滅可能性自治体を表化したところで地方の小規模自治体はいずれみな消滅可能性自治体になるのだろうと思います。

自立持続可能性自治体65は特殊解か

「自立持続可能性自治体65」を我々は目指すのでしょうか。先日、北陸自動車道を金沢市から福井市まで自動車で移動する機会があり、30年前に仕事でお世話になった石川県川北町を通過しました。ここが川北町であることは風景を見ていてすぐに理解できましたが、実は景観が様変わりしていることに驚きました。工場ばかりだったのです。あの豊かな水田地帯はどこに行ったのか。その川北町が自立持続可能性自治体65に入っています。ネットで調べてみると「1980年代から積極的な企業誘致政策により手取川の豊富な伏流水を利用する電子部品工場が立地」とあり、工業立地に成功したことが分かりました。自立持続可能性自治体65の表に出てくる宮城県大衡村はトヨタグループの東日本の生産拠点として有名であり、熊本県合志市、大津町、菊陽町、南阿蘇村、御船町、嘉島町、益城町は台湾のIT企業の誘致に成功し、大きな投資が行われたエリアです。茨城県つくばみらい市は筑波学園都市であり長野県南箕輪村は信州大学があるエリアです。これはみな特殊解なのでしょうか。

自立持続可能性自治体を目指すべき姿というのであれば地方消滅を救うのは子育て政策ではなく産業政策なのではないのか

「ブラックホール型自治体25」は忙しく働く東京や大阪、京都が中心です。ここで注目すべきはトマムがある北海道占冠村です。星野リゾートが中国ファンドに売り渡した後に中国人がいっぱい住んでいると誰かから聞きましたが、外国人が働くだけで子どもを育てることをしないのであれば東京と同じ状況なのですね。いずれにしても自立持続可能性自治体を目指すべき姿というのであれば地方消滅を救うのは子育て政策ではなく産業政策ではないのかと思うのです。

表に掲げられた自治体がどのような特性を持っているのか考えることによって今住んでいる地域の目指すべき道筋がみえてくる

人口戦略会議は2024年1月に「人口ビジョン2100―安定的で、成長力のある『8000万人国家』へ―」でこれまでの対応に欠けていたこととして、「政府も民間も、人口減少の要因や対策について英知を結集して調査分析を行わなかった」ことをあげています。大学で以下の表に掲げられた自治体がどのような特性を持っているのかを調べ、考えてほしいと思います。

新たに消滅可能性自治体に該当した99自治体

前回と同様に、移動仮定における減少率が50%以上の自治体である。

地方 自治体名称
北海道 (北海道)登別市、伊達市、北斗市、鹿部町、長万部町、今金町、京極町、赤井川村、上富良野町
東北 (青森県)藤崎町、六ケ所村

(秋田県)大潟村

(山形県)長井市、山辺町、高畠町

(福島県)会津若松市、白河市、喜多方市、二本松市、田村市、伊達市、桑折町、国見町、川俣町、天栄村、下郷町、桧枝岐村、只見町、南会津町、北塩原村、西会津町、猪苗代町、会津坂下町、三島町、金山町、会津美里町、泉崎村、棚倉町、矢祭町、塙町、鮫川村、石川町、玉川村、平田村、浅川町、古殿町、三春町、小野町

関東 (茨城県)鉾田市、八千代町

(栃木県)矢板市、益子町、市貝町

(群馬県)藤岡市、富岡市、板倉町

(埼玉県)神川町、松伏町

(神奈川県)中井町

中部 (新潟県)小千谷市、糸魚川市、阿賀野市

(富山県)入善町

(福井県)南越前町、越前町

(山梨県)都留市、西桂町

(長野県)阿南町、平谷村、大桑村、高山村、小川村

(岐阜県)山県市、池田町

(静岡県)御前崎市、牧之原市

(愛知県)津島市

近畿 (滋賀県)高島市

(京都府)宇治田原町

(大阪府)門真市、泉南市、阪南市、太子町

(兵庫県)西脇市

(奈良県)三宅町

(和歌山県)御坊市、広川町、白浜町

中国・四国 (岡山県)井原市、久米南町

(山口県)田布施町

(徳島県)鳴門市

(愛媛県)四国中央市

(高知県)安芸市、奈半利町、本山町、佐川町

九州・沖縄 (熊本県)産山村

(大分県)杵築市

資料:地方消滅2

自立持続可能性自治体65

移動仮定、封鎖人口ともに若年女性人口の減少率が20%未満の自治体は、「自立持続可能性自治体」として位置付けている。減少率が20%未満であれば、100 年後も若年女性が5 割近く残存しており、持続可能性が高いと考えられるからである。

地方 自治体名称
北海道
東北 (宮城県)大衡村
関東 (茨城県)つくばみらい市

(群馬県)吉岡町

(埼玉県)滑川町

(千葉県)流山市、印西市

(東京都)八丈町

(神奈川県)葉山町、開成町

中部 (石川県)川北町

(山梨県)忍野村

(長野県)原村、南箕輪村

(岐阜県)美濃加茂市

(静岡県)長泉町

(愛知県)大府市、日進市、東郷町、飛島村、阿久比町、幸田町

近畿 (三重県)朝日町

(滋賀県)守山市、栗東市

(京都府)木津川市、大山崎町

(大阪府)島本町

(奈良県)葛城市

中国・四国 (鳥取県)日吉津村

(岡山県)早島町

(広島県)府中町

九州・沖縄 (福岡県)太宰府市、福津市、那珂川市、志免町、須恵町、新宮町、久山町、粕屋町、苅田町

(熊本県)合志市、大津町、菊陽町、南阿蘇村、御船町、嘉島町、益城町

(鹿児島県)宇検村

(沖縄県)宜野湾市、浦添市、豊見城市、うるま市、南城市、宜野座村、金武町、読谷村、嘉手納町、北谷町、北中城村、中城村、与那原町、南風原町、八重瀬町、多良間村、竹富町

資料:地方消滅2

ブラックホール型自治体25

移動仮定における若年女性人口の減少率が50%未満である一方、封鎖人口における減少率が50%以上の自治体は、人口の増加分を他地域からの人口流入に依存しており、しかも当該地域の出生率が非常に低い。いわば人口の「ブラックホール型自治体」と呼ぶことができる。

地方 自治体名称
北海道 (北海道)喜茂別町、占冠村
東北
関東 (埼玉県)蕨市、茂呂山町

(千葉県)浦安市、酒々井町

(東京都)新宿区、文京区、台東区、墨田区、品川区、目黒区、大田区、世田谷区、渋谷区、中野区、杉並区、豊島区、北区、荒川区、板橋区、練馬区、青ヶ島村

中部
近畿 (京都府)京都市

(大阪府)大阪市

中国・四国
九州・沖縄

資料:地方消滅2


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