新増田リポートを読む(3)令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート

令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート―新たな地域別将来推計人口から分かる自治体の実情と課題―令和6年4月24日 人口戦略会議を抜き書きします。

2014 年5 月に日本創成会議(座長:増田寛也)が「消滅可能性都市」リストを発表してから10 年が経った。今般、人口戦略会議(議長:三村明夫、副議長:増田寛也)は、2023(令和5)年12 月に公表された新たな「日本の地域別将来推計人口(令和5 年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)に基づき、人口から見た全国の地方自治体「持続可能性」について分析を行った。今回は、2014 年の分析を踏まえつつ、新たな視点として、人口の「自然減対策」(出生率の向上)と「社会減対策」(人口流出の是正)の両面からの分析を行っている。各地方自治体や地域の人口の実情と課題を考える上で、参考にしていただければ幸いである。

1.本分析の考え方


2014 年の分析手法を拡充

2014 年の分析は、「日本の地域別将来推計人口」における「20~39 歳の女性人口」(以下、若年女性人口)の将来動向に着目したものであった。この若年女性人口が減少しつづける限り、出生数は低下しつづけ、総人口の減少に歯止めがかからない。人口減少のスピードを考えると、若年女性人口が2010年から2040年までの30年間で50%以上のスピードで急減する地域では、70年後には2割に、100年後には1割程度にまで減っていくことになる。このような地域は、最終的には消滅する可能性が高いのではないか、と推測したものである。今回も、こうした前回の考え方を基本的には踏襲し、若年女性人口が2020年から2050年までの30年間で50%以上減少する自治体を「消滅可能性自治体」としている。加えて今回は、各自治体が深刻な人口減少を回避するにはいかなる対策を講ずるべきか、という視点からの分析も行った。なぜ、このような分析を行ったか。2014年の分析結果は各自治体に大きな影響を与えたが、各自治体の人口減少対策は、どちらかと言えば人口流出の是正という「社会減対策」に重点が置かれ過ぎているきらいがある。東京圏への人口流出の防止はともかく、若年人口を近隣自治体間で奪い合うかのような状況も見られる。こうしたゼロサムゲームのような取り組みは、結果として出生率向上に結びつくわけでなく、日本全体の人口減少の基調を変えていく効果は乏しい。

「封鎖人口」を用いて自然減を分析

そこで、今回は、「日本の地域別将来推計人口」で公表されている「封鎖人口」の仮定した推計結果データ(各自治体において人口移動がなく、出生と死亡だけの要因で人口が変化すると仮定した推計結果)を活用して、別途分析を行った。封鎖人口の分析と、移動傾向が一定程度続くとの仮定(移動仮定)のもとでの推計を比較することにより、若年女性の人口動向に影響を与えている要因が構造的に分かり、地域特性に応じた人口減少対策の重要性が明らかになるからである。たとえば、封鎖人口において若年女性人口が急減する地域では、出生率の向上という「自然減対策」が重要な課題となることが分かる。逆に、封鎖人口では人口減少は穏やかだが、移動仮定の分析では人口が急減する地域では、人口流出の是正といった「社会減対策」が重要となる。このように地域によって、取り組むべき対策が異なってくる。

2.「消滅可能性自治体」の状況


「消滅可能性自治体」は744 自治体

分析の結果、移動仮定の若年女性人口の減少率が2020 年から2050 年までの間に50%以上となる自治体(消滅可能性自治体)は744 自治体である。2014 年の896 自治体と比べると若干改善が見られる1。このうち、前回対象としなかった福島県の自治体を除くと、711 自治体となる。今回、消滅可能性自治体を脱却したのは239 自治体だった。744自治体のうち、今回新たに該当したのは99(うち福島県の自治体が33)、前回、今回ともに消滅可能性自治体であることに変わりはないが、若年女性人口減少率が改善したのは362、悪化したのは283 である。

少子化の基調は変わっていない

今回の分析結果は、昨年12 月公表の「日本の地域別将来推計人口」、さらには、そのベースである昨年4 月公表の「日本の将来推計人口(令和5 年推計)」の推計結果を反映している。これらの将来推計人口では、前回に比べ外国人の入国超過数が大きく増ていることなどから、今回の分析においては人口減少傾向が改善する結果となっている。
しかし、実態としては、少子化基調が全く変わっていないことに留意する必要がある。日本人人口で見れば、前述した「日本の将来推計人口」においても、日本人女性の出生率仮定値(中位推計)は前回推計の1.40(2065 年時点)より低い1.29(2070 年時点)まで低下しており、楽観視できる状況にはない。

3.新たな分析の結果


9 つの分類分け

今回、封鎖人口を用いた推計も加味した新たな分析手法として、次のような9 つの分類を設定した。縦軸は移動仮定における若年女性人口減少率による分類、横軸は封鎖人口における若年女性人口減少率による分類である。

◆ 自立持続可能性自治体(A)

移動仮定、封鎖人口ともに若年女性人口の減少率が20%未満の自治体は、「自立持続可能性自治体」として位置付けている。減少率が20%未満であれば、100 年後も若年女性が5 割近く残存しており、持続可能性が高いと考えられるからである。

◆ ブラックホール型自治体(B-①、B-②)

移動仮定における若年女性人口の減少率が50%未満である一方、封鎖人口における減少率が50%以上の自治体は、人口の増加分を他地域からの人口流入に依存しており、しかも当該地域の出生率が非常に低い。いわば人口の「ブラックホール型自治体」と呼ぶことができる。

◆ 消滅可能性自治体(C-①、C-②、C-③)

前回と同様に、移動仮定における減少率が50%以上の自治体である。

◆ その他の自治体(D-①、D-②、D-③)

上記の分類にあたらない自治体で、そのほとんどで若年女性人口が減少する見込みである。減少状況によって、必要な対策が異なることに留意する必要がある。

全体の状況

9 つの分類の該当自治体の分布は下図のとおりである。「自立持続可能性自治体」は65 で、全1729 自治体の4%に満たない。また、「ブラックホール型自治体」は25(全体の1%)である。「消滅可能性自治体」の総数は744(同43%)で、その中でも特に構造的に深刻な自治体(C-③)が23(同1%)ある。また、いずれにも該当しない「その他の自治体」は895(同52%)にのぼるが、自然減対策と社会減対策がともに必要な自治体(D-③)が514(30%)となっている。

人口規模別の状況

人口規模別に見ると、50 万人以上の自治体では、自然減の深刻な「ブラックホール型自治体」が7、30 万~50 万人未満の自治体では5 存在しており、人口の多い大都市は出生率向上が急務であることが分かる。「消滅可能性自治体」は、5 万人未満の自治体で増加し、1 万人未満では自治体の6 割を超えている。一方、「自立持続可能性自治体」は少ないものの、1万~5 万人規模を中心に、比較的小規模の自治体に存在している。全般的に見れば、人口規模の大きい自治体は自然減対策が、また、小さい自治体は社会減対策と自然減対策の両方が必要だといえる。

地域ブロック別の状況

地域ブロック別に見ると、状況は大きく異なっている。北海道は「消滅可能性自治体」が117にのぼる。北海道の自治体の大半は人口流出が激しく、社会減対策が必要だが、自然減対策も必要な自治体は少なくない。東北は「消滅可能性自治体」が165 で、その数も割合も全国最多であり、社会減対策も自然減対策もともに必要な自治体が大半である。関東は「消滅可能性自治体」が91 にとどまる一方で、「ブラックホール型自治体」が東京都の17 を含め21
にのぼる。中部は「消滅可能性自治体」は109 であるが、「自立持続可能性自治体」が12 存在する。近畿は「消滅可能性自治体」が93、「ブラックホール型自治体」が2 存在しており、自然消滅対策の必要性が高い。中四国は「消滅可能性自治体」は93 だが、前回から脱却した自治体が多い。特に、島根県は脱却した自治体が12 にのぼり、「消滅可能性自治体」はわずか4 に減っている。九州・沖縄は「消滅可能性自治体」が76 で最も少ない上に、「自立持続可能性自治体」が34 も存在し、全国の総数65 の半数以上を占める。中でも、沖縄県が17、福岡県が9、熊本県が7 にのぼる。以上のように、人口規模や地域によって人口特性の違いが浮き彫りとなっている。各自治体は、自らの実情と課題に応じて、人口の自然減対策と社会減対策を適切に組み合わせた対応が求められている。

全国1729自治体の持続可能性分析結果リスト

中四国は「消滅可能性自治体」は 93 だが、前回から脱却した自治体が多い。特に、島根県は脱却した自治体が 12 にのぼり、「消滅可能性自治体」はわずか 4 に減っている。

人口戦略会議が発表したコメントの中で『中四国は「消滅可能性自治体」は93だが、前回から脱却した自治体が多い。特に、島根県は脱却した自治体が12にのぼり、「消滅可能性自治体」はわずか4に減っている』というコメントに私は注目しています。同会議は都道府県別の集計結果として発表していないのは競争をあおる懸念があるからです。しかし、島根県の様子をみたく敢えて中四国と島嶼部で隣り合わせの長崎を県別にみました。すると島根県の市町村が消滅可能性自治体を脱却していることが鮮明です。隠岐の町村のほとんどが脱却しているのに比べ、隣の長崎県島嶼部の対馬、五島列島の市町村が脱却できていません。社会増が1.6を超えて話題となった五島市も脱却できていません。では島根県は何をしてきたのでしょうか。①高校魅了化を契機に島根県は高校の統廃合をやめた。②特別交付税は県に入り、市町村に公平に分配することが多く申請金額の7割が入ればよいところなの島根県は地域おこし協力隊への分配に限り100%を交付した。③集落問題を現場からみてきた作野広和教授、田園回帰1%戦略を提唱した藤山浩氏という島根県出身の専門家が集落の現場の近くにおり、市町村や住民が問題意識を持てたことが大きいのではないでしょうか。「英知(イノベーション)は辺境から生まれる」ですね。

鳥取県

島根県

高知県

長崎県

全国1729自治体の持続可能性分析結果リストhttps://www.hit-north.or.jp/information/2024/04/24/2171/