黒田哲夫
八尾市の黒田哲夫と申します。地域支援の業務に携わりながら、地域住民が地域課題を解決していく過程を学術的に整理し可視化していく研究に取り組み続けています。当学会にご縁をいただいてから5年になります。
優秀論文賞を受賞
マッセOSAKA(おおさか市町村職員研修研究センター)は、大阪府内の市町村職員の広域的な研修研究機関であり、行政を取り巻く社会経済情勢の変化に対応できる人材育成を目的としています。研究事業の一つに公募論文があり、市町村職員から研究論文やエッセイを募集します。投稿内容は自治体や行政に関するものであればテーマは自由であり、学識者で構成される選考委員により審査され、高評価の論文やエッセイ(最優秀1編、優秀3編など)が表彰されます。この度、私は2024年度の研究論文部門において、優秀論文賞を受賞させていただきました。受賞論文の主題は「住民間の関係性の希薄化により地域社会から孤立して子育てする“孤育て”という課題に対して、地域住民主導の子育て支援がこの課題を解決し得るのか」であり、子育て支援活動を分析し考察した研究です。子育て支援活動が始まった2022年当時は、コロナ禍で人と人との接触が制限されていた時期でした。「公園で孤立し孤育てになっている親子を何とかしたい」という地域の女性たちの切実な思いに学術的な知見が活用できないかと考え、それに応える形で取り組んだ研究でした。2022年にはじまった活動は今も続いており、子育てに悩む親を地域にいる子育ての専門家を中心に支援活動は続いています。現在もこの地域の方々との交流と活動の継続調査も続けていることから、これらの成果を研究論文にまとめる予定です。
社会的に意義のあることだ
マッセOSAKAでの優秀論文賞の受賞は、実は3度目になります。1度目は2018年度のエッセイ部門でした。当時、日本全体で育児休暇を取得する男性は5.14%と少なく、男性の管理職で育児休業する人は希少でした。自分の経験が育児に悩む人の参考や助けになるのではないかと思い、育児休業の前後や休業中に感じたことや考えたことをエッセイにまとめました。育児休業や時差出勤を活用した私に対して上司からの理解と応援は得られませんでしたが、マッセOSAKAの林所長が授賞式の講評にて「社会的に意義のあることだ」と称賛してくださったことは励みになりました。2回目は2019年度の研究論文部門で、当時、仕事で携わっていた公共下水道事業に関する広域化・共同化に関するものでした。育児休暇で職場に迷惑をかけた分、少しでも恩返しになればと研究論文にまとめました。この政策が進めば国からの交付金が増え、人員不足に悩む職員のモチベーションもアップすると考えたからです。この同時期にも公共下水道事業の公営企業化に関する研究論文が下水道協会誌に掲載されました。それが国土交通省の官僚の目に留まり、先進事例の紹介として地方自治体職員向けの講演や検討会に呼んでいただくきっかけになりました。その後、総務省からもご依頼をいただき地方財務協会誌に研究論文を掲載していただきました。そして3度目が今回の2024年度の研究論文部門での受賞でした。
働き方を「選択」できる仕組みづくりを考える研究会
マッセOSAKAでは毎年、課題に応じた研究会を設置しています。市町村独自で解決が困難な様々な課題に関して、市町村からの職員が研究員となり、大学や専門機関の協力を得て研究成果を追求し、住民福祉の向上につながる政策づくりに役立つ知見を提供する事業を行っています。私は2022年度に『働き方を「選択」できる仕組みづくりを考える研究会』に研究員として1年間参加しました。この研究会では、政策学修士としての知見を広く行政の課題解決に活かし役立てる目的で参加しました。10名の研究員で先進自治体への取材、サーベイ調査、議論、資料作成などに取り組み、220ページに及ぶ報告書を作成することができました。研究報告書はマッセOSAKAのホームページに掲載され自治体の政策立案に活用されています。
学会の活動や研究発表にも積極的に参加していこうと考えています
今後も実務家研究者として謙虚な気持ちを忘れず、社会課題解決と変革に向けたアクションリサーチに取り組み続けていきます。学会の活動や研究発表にも積極的に参加していこうと考えています。学会活動を通じて五島市で子育て支援に関する講演をさせていただく素晴らしい機会にも恵まれました。「学ぶ人は変えていく人だ」を具現化し続け、身近な社会を1mmでも良くしていくことが自分の使い道だと定義し、常に問いをたて解決の道筋を示すことができるような研究者になりたいです。そして研究者を名乗る以上、何年かかるかわかりませんが博士号を取得するつもりです。これからも自分の信じる研究分野に積極的に取り組んでいく所存です。その方が人生を有意義につかえますから。
地域活性学会の諸先輩のみなさまにおかれましては、引き続きご指導ご鞭撻をたまわりますよう、よろしくお願い申し上げます。

マッセOSAKA(おおさか市町村職員研修研究センター)の2024年度の研究論文部門において、優秀論文賞を受賞