地域活性は、人口減少社会の希望です。
地域活性には地域の産官学金あらゆるステークホルダーの連携が求められることもあり、長年携わってきた地域金融については、その変革に強い関心を持っています。
2025年に金融部会の部会長を拝命し、皆さまの協力を得ながら、さまざまな議論を巻き起こしていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
神戸大学で金融の重要性を知る
高市早苗氏は、2025年に一躍時の人となられましたが、神戸大学経営学部の同級生です。
神戸大学経営学部を志望したのは、東広島市の実家で同居していた祖父が、現在は看板を引き継いでいる「日下企業経営相談所」を営んでいたからでした。“企業経営”という四文字が三つ子の魂のように心に刻まれ、企業経営とは何かを探究したい気持ちから、一本勝負の末に入学できました。
大学で経済や経営を基礎から学んでいく過程で、企業経営の真髄に触れるより前に、企業経営には金融が不可欠であることが分かりました。企業には自己資本のほか他人資本が必要であり、それを供与(融資)しているのが金融機関だからです。金融を学び始めるとそれも奥深く好奇心をかきたてられ、いつしか会計学(特にバランスシート)に傾斜していきました。
企業経営と会計の知識を携えて地元に戻ることにしたところ、祖父の勧めもあって広島銀行に就職しました。銀行であれば多くの企業に接することができるため、学んだことが存分に活かせると思ったからでした。
企業の事業を評価する手法を開発
広島銀行の勤務は31年間の長きにおよび、そこで1万社もの企業の会計情報に触れました。
しかしながら、いくら会計情報を精緻に分析したとしても、企業の実態は断片的にしか分かりません。八百屋と魚屋を、バランスシートでは見分けることができないわけです。
そこで、2010年からの融資企画部長時代に、企業の定性的な情報を対面のヒアリングで収集し、それを予め定めた基準に当てて評価する手法を開発しました。折しもリーマンショックの後の金融業界は、「中小企業金融円滑化法」によって企業を資金繰り破たんさせないように支援することが求められており、それを確実に行うためには、それぞれの企業の事業をしっかりと把握することが不可欠だったからです。
その手法が金融庁の目に止まり、やがて転職するきっかけとなりました。
金融庁で47都道府県を訪問
金融庁に転職した2015年は、政府に「まち・ひと・しごと創生本部」が立ち上がり、地方創生が国の施策として大きくクローズアップされていたタイミングでした。地域金融企画室長を皮切りに、一貫して地域金融の変革を後押しする役割を担っていたこともあり、6年間の在任期間中に、47都道府県をくまなく周りました。
訪問した各地では、地域金融のみならず、産官学の人たちとも交流し、地域活性の最前線で活動する多くの人たちと出会いました。そのことを通じて感じたことは、地域活性には同じものはなく、それぞれが固有の特長を持っていることでした。その後に地域課題解決支援室長も兼務したことから、部下の発案により、そのような地域の最前線の人をつなぐネットワークとして、「ちいきん会」を立ち上げることにしました。
2019年の3月に東京で開催した第1回のちいきん会には全国から230名もの有志が集まり、肩書を外した地域活性を目的とした交流が生まれました。その後6月にも東京で200名、11月の福島には実に380名が集結するなど、大きなうねりとなりました。
コロナ禍での休止期間を経て、現在では年に1回の全国ミートアップ会と、それぞれの地域で開催する「ダイアログ」を組み合わせて開催しており、総勢で3,000人を超えるネットワークに育っています。
地域金融改革史を出版
2021年に金融庁を定年退官し、日下企業経営相談所を再興しました。広島銀行在職時よりいつかは祖父と同じことをしたいと思っていたこともあり、霞が関の人には珍しがられましたが、念願を叶えたのです。その後は月に10日ほど、全国の中小企業の経営者からありとあらゆることの相談を承っています。
そうこうしていると、金融庁時代に交流のあった日経新聞の記者から、金融庁で仕えた遠藤俊英元長官(現ソニーフィナンシャルグループ社長)と共著を出さないかとお声かけがありました。遠藤さんも交えて何度か打ち合わせをして、同世代(遠藤さんが私の2学年上)なので官と民それぞれから見た金融史が面白いんじゃないかという話で纏まり、約半年の執筆期間を経て、2023年9月に「地銀改革史」を刊行しました。
遠藤さんとそれぞれに書き進み、最初にドラフトを交換した時にその分量の多さに驚き、少しでも枚数を近づけようとした結果、広島銀行時代の経験を入行時からかなり詳しく書くことになりました。改めて振り返るなかで、金融機関がしっかりと地域の企業の経営を支えていくことの大切さを、再認識することになりました。
地域活性学会金融部会に参加
縁あって地域活性学会に参加し、山形大学の小野浩幸教授のお誘いで金融部会に所属しました。金融庁退官後も月に10日は各地を訪れることにしていることもあり、地域活性学会はこの上ない学びの場であり、そこでの交流はいつも新鮮でワクワクします。
地域活性における金融はまだ主要プレイヤーとなってはいませんが、金融機関の経営の観点からすると、地域が衰退することを看過できないことは言うまでもなく、今後の地域金融の変革に強く期待しています。金融部会の活動を通じて、今後のネットワークづくりと、その時々での情報発信をしていきたいと思っています。
(写真は2025年の大会発表:日付は2025年9月7日の誤り)

