日本農業新聞で1年間のコラムを担当させていただいた。地域活性学会の研究大会が開催される兵庫県豊岡市の記事が2本ありましたののでここで紹介させていただきます。
資源循環の一翼担う(日本農業新聞)
豊岡市日高町の神鍋白炭工房に工房長田沼光詞さん(53歳)を訪ねた。炭焼き3代目。事業を継いだのは10年前。平成24年8月に神鍋白炭工房株式会社に法人化し、田沼さんは工房長に就任して6年目になる。地元の食品卸売会社に勤めていたが、その会社を退職し、その食品卸売会社の社長に神鍋白炭工房の社長になってもらった。従業員は5人。奥さんからは食べられるようになれば良いと言われ、借金はしているが子供もなんとか大学に進学させていると元気に笑う。但馬、丹後、丹波と広域に広葉樹の伐採に出かける。炭焼きだけではなく、里山、森林資源をどう活かすかを常に考えている。業務は、炭、薪、木酢液、シイタケ原木の生産。薪ストーブの施工販売、工事伐採、人工林伐採の請負などだ。炭は食材を焼く燃料用、レアメタルの精錬に使う工業用などがあり、これで3代続く炭焼きでメシを食ってきた。新用途としては住宅の床下調湿用や製材所の木材の低温乾燥の除湿剤に炭も使われるようになった。また採卵養鶏では鶏の餌として炭も使われている。食用の炭も人気がある。白炭を粗粉砕して粉砕業者に送り10ミクロンまで粉砕したもの作り、それを袋詰め商品化したものを10年前から販売している。袋詰めは地域にある共同作業所に委託もしており、社会的弱者の自立支援と地域内の資金循環に貢献したいと考えている。デトックス効果があり、免疫力がアップするとのこと。花粉症の症状緩和にも大好評だそうだ。炭焼きは大変な作業だ。木を伐ることも大変だが、窯に詰め込み、摂氏1000度の窯から炭をかき出す作業が最も大変だ。この作業をトロッコ移動型に改良したのが2代目となる父だ。焼き窯と冷却窯を作りその間を線路で結び、トロッコのような台車で焼き窯から、冷却窯に移すことで、かき出す作業をなくした。この窯を3基所有しており、炭の大量生産が可能となった。1回150~200キロの炭ができる。林業では、スギ、ヒノキ、マツ以外は雑木扱いされている。カシ、ブナ、コナラ、ケヤキ、サクラ、トチの木などの広葉樹は貴重な地域資源だ。こうした森の木々を伐採すると春には地面から草木が芽吹き、鹿などの有害鳥獣がそれを餌に食べるので山から里に下りてこない。山の木を伐ることによって、林地に光が差し、草が生え、虫も鳥もやってくる。広葉樹の森が元気になると落ち葉が養分になり川に流れ、海では磯焼け防止にもなる。地味な活動であるが、こうした取り組みの一端を担うことがとても大切だと田沼さんは強調する。木を適材適所で使ってほしいと話す田沼さんに元気をいただいた。(日本農業新聞2019年7月7日掲載)
危機感共有し挑戦を(日本農業新聞)
兵庫県豊岡市にある中谷農事組合法人代表理事組合長の松井栄作さん(56歳)を訪ねた。ここはコウノトリ米で有名。環境にやさしい米づくりに取り組んできた。同組合は昭和63年に「一集落一農場」を合言葉に集落営農を開始した。次男に限らず、長男も都会に出て行った。彼らが戻ってくるかどうかわからない。後継者が少なく、自分の代で農業も終わりになるのではないか。この際、集落でまとまるほうがよいのではないかと考え生産組合を設立した。農家は持っていた小型の農機具を売り、大型の農業機械を購入し、集落農業を始めた。これをまとめたのはリーダーシップのある人間がいたからだ。他の地域より15年ほど早かった。昭和63年に生産組合を設立し、同年に大規模圃場整備に取り組み、平成10年に農事組合法人を設立し、平成29年には組合設立30周年を迎えた。転機だったのは組合法人が直売する減農薬特別栽培米「六方銀米」を平成5年から取り組んだことだ。米を高く売るべきではないかと流通卸会社から農家に転身した組合員が問題提起したのだ。自社販売する六方銀米は28ヘクタールで栽培。またJAを通して流通するコウノトリ米も9ヘクタールで栽培している。六方銀米はインターネット販売が中心だ。5キロ袋2500円、10キロ袋5000円で販売し、直販の55%、年間4500万円程度がインターネットを介しての売上となっている。インターネット販売への取り組みは早かった。安心、安全を謳った米を商品化したが、東日本大震災が起こり、西日本で生産される米が求められた。六方銀米は安心、安全を謳う米で検索サイトの上位にヒットし、関東地方からの注文が一気に増えた。これでネット販売が軌道に乗った。顧客は高級米志向で体にも気を遣う方々で、サイトによっては玄米を購入する方が50%を超える。通年を継続して購入される方も多く、売れるだけ売り、売り切れとなるのを防ぐため、ブレーキをかけながら販売を進めている。組合を作ろうと言い出した人、高く米を売ろうと言い出した人。こうした危機感を持って言い出す人材は、あなたの地域にもいる。まずは3人程度で話してみることだ。そのうち一人は外部の専門家でもよいと思う。今からブランド米競争に参入するのは遅いが、玄米7分づきパックごはんの商品化などは検討の余地がある。3人寄れば文殊の知恵。いいアイデアはここから生まれ、全体像が見えたら、その人がリーダーとして適任だ。プロジェクト期間は3年程度。小さなプロジェクトでよい。こうしたトライを地域で繰り返してゆくとこれから進むべき道は見えてくる。リーダーが生まれ、次々にリーダーが生まれる土壌はこうして作られる。(日本農業新聞2019年5月19日掲載)
Writer:斉藤俊幸