【能登半島地震】被災地域の地域再生に向けてー10年間の震災復興ワークスの実践から(特別寄稿)

岩手県南三陸町

被災した自治体と専門家をつなぐプラットフォーム「震災復興ワークス」を設立

今年の元旦に発生した能登半島沖地震で亡くなられた方、被災された方々に、心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。関東支部長の関幸子です。私は2011年の東日本大震災の時に「一般社団法人震災復興ワークス」を立ち上げ、10年間にわたり東北の復興と再生に向けて事業に取り組んできました。このの経験から、今回の能登半島沖地震での地域再生への手法に関して、提案をさせて頂きます。震災復興ワークスを立ち上げた理由は、3月11日の地震当日、私は千代田区のオフィスにいて、2回の大きな揺れの恐怖と公共交通がマヒし帰ることができなかった原体験が大きく影響しています。大きな津波が町ごと飲み込む映像を見て、何かしなければと気持ちが大きくなり、動き出すことにしました。東北地方の復興には、多くの専門家と時間が不可欠ですが、最も深刻な課題は、復興計画を描く人材とその事業を具体的に推進できる「人」、いわばプロジェクトマネージャーの不足でした。復興の中心は住民、首長、自治体の職員となります。しかしながら、住民や自治体の職員は、自らが被災者であり、復興の前線で取り組んでいる自治体の職員は、被災の緊急対応だけではなく通常の自治体業務に追われ、復興事業に着手できる余裕がない状況にありました。一方で東京等では、東北地域の復興に貢献したいまちづくりや地域活性化、商店街振興、地域・都市再生にかかわる関係者、自治体OBが多数おりました。しかし、人材を確保したい自治体と彼らをつなぐ組織が存在せずミスマッチな状況となっていました。こうした状況を見て、被災した自治体と専門家をつなぐためのプラットフォームとなる「震災復興ワークス」を設立しました。「震災復興ワークス」の取り組みは、公共をサポートし公民連携の促進・調整する主体となるものです。具体的には、まず、復興事業計画の原案を作成することでした。その後に自治体別あるいは事業ごとに、適材の人材を選定しチーム編成して、地方自治体の職員とともに、地域で実際の事業を進めました。ワークスが一定の成果を出したのは、契約自治体絞り込み、事業対象の明確化にあります。ワークスでは、復興事業計画、経済振興計画、帰還復興計画など、自治体職員が通常の仕事以外に作らなくてはならない復興事業計画を書くこと、事業計画を構築のための地元住民との説明会、ワークショップの事務局に絞ったことにあります。加えて、活動予算の獲得、専任の事務局体制を構築したことにあります。

岩手県石巻市大川小学校

活動予算の獲得=民間企業から寄付を募る

実際に現地入りする交通費、専門家をつなぐHP作成には費用が必要です。東洋大学の根本祐二教授の協力を得て、大学が寄付の受け皿になって頂き、寄付控除が受けられるようにしました。NEC、富士通、スマートエナジー等数多くの企業からも寄付を頂いてきました。特に㈱丸和運輸機関の和佐見勝社長様からは、1000万円を3年間にわたり寄付を頂いており、ここでも改めて感謝申し上げます。

事務局の専任性

事務局長と事務局次長は、10年間にわたり専任で雇用しました。なぜなら、社団法人の要の体制となるからであり、継続して事業活動を支えることになります。加えて、多摩市役所OBをアルバイトで雇用し、事務局は実務者で固めました。監査役は、現会長の御園慎一郎さんが担ってくれました。

大学の専門知財の支援

復興事業に合わせて、専門人材は、東洋大学の根本祐二先生を中心に、一橋大学の関満博教授、古川一郎教授にお願いしました。加えて、事業ごとにその分野の専門家の方に入って頂きました。あわせて、現地の大学と大学の教授との連携も深めました。特に東北大学、石巻専修大学の方々とは本当に連携して事業を進めました。

支援する自治体と事業も絞る

震災復興ワークスが対象にした事業は、復興計画等、未来を作る計画の策定支援に絞りました。東北では多くの自治体が被災しましたが、こちらの体力もあり、岩手県大槌町、宮城県石巻市、福島県南相馬市に絞り、この3自治体とは正式に復興支援協定を結び、包括的に事業ができるようにしました。宮城県石巻市では、店舗再建に向けた経産省のグループ補助金申請書事務、石巻中心市街地基本計画策定支援とその市民会議の事務局、石巻元気市場の建設整備申請書作成(経産省中心市街地活性化補助金S特)と支援しました。個人的にもこの10年間石巻市の復興アドバイザーに就任していました。松山市では、松島市ひと・しごと・にぎわい創生事業調査報事業となります。南三陸町では、地域まちづくり会社の設立と人材派遣を行いました。福島県南相馬市では、南相馬市小高区再生調査報告書作成と、市民参加会議事務局事業、岩手県大槌町では地域経済復興計画の策定、その住民参加懇談会の事務局支援等を実施しました。

岩手県大槌町の平野公三町長へ義援金をお渡ししました

事務局パワーが必要

自治体と復興協定を結ぶために、地元の自治体に入り、信頼を得て、段取りをつけるパワー事務局が必要です。いわば営業マン不可欠で、私と事務局長でこの契約までこぎつけました。具体的には石巻市役所に2011年6月に入り、御用聞きのように何かできることはありせんかと何度も「押しかけ女房」のように訪問して、顔を覚えて貰い、信頼を得るようにしました。そして最初に出してくれた仕事は、商店街、漁業関係者の店舗、倉庫の再建のための経産省のグループ補助金の第3次申請書作成です。約5000億円の申請書を約1週間で作成して、経産省に届けました。この仕事を評価頂き、実は東日本大震災の時には、2011年の12月末には、被災した自治体では、ほとんどの復興再生計画を策定しています。復興計画を策定して復興庁に提出できないと、国から予算が降りてこないからです。今回の能登半島沖地震でも、地域再生計画等の立案は、意外と早い時期に必要です。

地域活性学会でも早めに、どの自治体を対象に何を支援するのかを明確に決定することが重要です。あわせて、能登半島地域の復興を本気で支援するには、専任の事務局体制を構築しないと実際には、動かないと感じます。震災復興ワークスの取組が、今回の地震にすべて当てはまるわけではありませんが、少しでもお役に立てば幸いです。

南三陸町のホテル観洋では、震災後10年継続して語り部ツアーを実施しています。これこそが未来へとつなぐ大切な取組です。阿部憲子女将とたくさん語らいました