素案作成 西川洋行
2022年度版の投稿要領が発表された。投稿要領、査読審査ガイドライン及び査読体制は今まではなかった。しかし、JKを意識していただき、査読論文の考え方がはじめて明記されました。この中の一文を引用させていただくと「本誌の目的は 研究者と実務家が協力して議論を交わし、より実践的な学術知の形成に取り組むことであり 、そのために本誌は自由闊達な議論の場を学会員その他読者に提供するものであるから、投稿者が発案・熟考し、考案・試行した新規性・独自性 を評価すべきである。新たな実践的学術知の形成に向けては、形式的な要件は最低限にとどめ、論考や取り組み等の独自性(オリジナリティー)、有用性(実用上の利用価値)、進歩性(新たな解釈や理論的枠組み)等を重視した評価姿勢 が求められる」とあります。研究者のみなさんがJKに手を差し伸べた名文をぜひ、ご一読ください。理事会の議論の中で、このガイドラインを作り、議論された皆様に改めて御礼申し上げます(斉藤)。
1. 学術誌の意義、位置づけ
本学会の研究目的として掲げる「地域活性に関する学術研究の高度化 」と「地域活性に関する実践的研究の促進 」に貢献するという視点から、 研究者と実務家が協力して議論を交わし、より実践的な学術知の形成に取り組むことを目的とする。
2.研究分野・内容と投稿区分
地域社会の振興・活性化や地域課題の解決等に関する研究には、大別して、事象や取り組み等を学問的新規性の観点から論じる「学術研究」と、現実的・実践的な手法や解決策等の実現に主たる関心を持つ「実務研究」の 2分野がある。両者は相互に関連しており、それぞれの研究から得られる知見を共有し融合することによってより実践的な学術知の創出につながるとの考えから、この2分野を本誌が取り扱う研究分野・内容と定義 し、それぞれ「学術研究論文」 、「実務研究論文」 の2区分を設定する 。この異なる目的を持つ2つの分野は並列に扱われるとと もに、知見を交換し合い、切磋琢磨しあって発展すべきものである が、研究の発展にはいくつもの段階があり、時間もかかる。研究の萌芽段階や中間段階において 得られた有用な知見や情報は、それだけで有用なものであることから、論文としての完成度はないものの有用な知見や情報について本誌で取り扱うことは重要であるとの認識から、「学術研究ノート:学術研究論文に相当する分野 における萌芽的・中間段階での成果に関するもの」、「事例報告:実務研究論文に相当する分野における個々の事例や取り組みの詳述・紹介に関するもの」の 2区分を設定する 。いずれの区分においても、 投稿原稿は著者の独善的なものであってはならず、 最終的な評価は読者が下すものとの考えから、掲載可否の判断には第三者による査読を 経て、論文誌編集委員会が客観的に判断するものとする。
・学術 研究 論文 学術的な新規性に主たる関心を示すもの
研究対象となる事象や取り組み等を、学問的背景や知見に基づき学術的に解明するものであり、学術的に新たな知見を明示する 論考を含み、一般的、普遍的な理解や論理構成を有するもの。 論旨が一貫し、学術的成果として一定の結論を得る段階に至っていることが望ましい。
・実務研究 論文 現実的・実践的な手法や解決策等に主たる関心を示すもの
研究対象となる事象や取り組み等を現実的・実践的に実行し、達成し、又は解決を図る手法や方策等を主に実務的視点から記述するもの。事象や取り組み等の記述に加え 一定程度の 一般性・普遍性 を有 し、同様の事象や取り組み等を再現・実施するうえで十分な説明・記述がなされていることが望ましい 。
・学術研究ノート:学術研究の萌芽段階・途中段階にあって重要な知見を扱うもの
学術研究の萌芽段階や研究の途中段階における研究成果が対象で、将来的に学術研究論文への発展が期待されるもの。学術研究論文とするには時間がかかる場合や、萌芽段階での顕著な知見が得られ、早期の公表が望ましいと判断する場合 等 は、本区分に投稿されることを薦める。
・事例報告:新規性が高く速報する価値のある事象や取り組み等を詳述し紹介するもの
研究対象となる事象や取り組み等について、詳細に説明・記述したものであり、事象や取り組み等の記録・紹介・応用等を目的としたもの。 実務研究論文 に求められる詳しい分析、考察は必要なく 、事例の詳述度合いや新規性、また速報性等を重視している。
3.審査基準 (ガイドライン)
研究分野・内容が異なることから 、学術研究論文と実務研究論文に、それぞれ審査基準(ガイドライン )を定める。 これはあくまでも審査における考え方を示すものであり、 過度に適用すべきものではない。本誌の目的は 研究者と実務家が協力して議論を交わし、より実践的な学術知の形成に取り組むことであり 、そのために本誌は自由闊達な議論の場を学会員その他読者に提供するものであるから、投稿者が発案・熟考し、考案・試行した新規性・独自性 を評価すべきである。新たな実践的学術知の形成に向けては、形式的な要件は最低限にとどめ、論考や取り組み等の独自性(オリジナリティー)、有用性(実用上の利用価値)、進歩性(新たな解釈や理論的枠組み)等を重視した評価姿勢 が求められる。
(1)必須要件(最低限必要な事項)
以下に示す審査項目は、最低限必要 とされる項目を示したものであり、論文全体の構成からみて、 一般的な読者が論文の内容や主張等を理解するのに必要十分な最低限の記述がなされているかを基準とする。
・学術研究論文
審査項目は以下の7つとする。
① 主旨の適合性主旨の適合性
② 学術的学術的新規性(オリジナリティ)
③ 論理的一貫性論理的一貫性
④ 先行研究に基づく論考と適切な仮説設定の有無
⑤ 事例またはデータの定量的あるいは定性的分析の信頼性
⑥ 理論化(モデル化)の試み
⑦ 政策的インプリケーション
①主旨の適合性とは、論文等の主たる内容が「地域活性研究」の研究領域に関して、学術的あるいは実用的もしくは政策的な見地から、どのような関連性を有しているかについて明確に示されているかどうかをいう。
②学術的 新規性(オリジナリティ)とは、 論文等の主たる内容が 、公知や既発表(以下、「公知等」という。)の事項でないこと、もしくは公知等の事項から容易に導き出せるものではないことをいう。内容の一部に公知等の内容を含み、それに新たな知見を加えて再構成した場合は新規性(オリジナリティ)が認められるが、その場合は必ず公知等の 内容と出典が明記され、引用であることが明らかにされている必要がある。また、公知等の学説や知見であっても、論証されたことがないものを新たに論証した場合は新規性があると認められる。同様に、既に論証されている公知等の学説や知見でも、新たな創造的方法で論証が行われている場合には新規性が認められる。
③論理的一貫性とは、論文等の内容が論理的に構成・説明され、論理的に飛躍しているなどの不確かなところがなく、その主張する内容が無理なく理解される程度に記述されていることをいう。
④先行研究に基づく論考と適切な仮説設定の有 無 とは、論文等の主たる内容に関連する先行研究が十分に調べられていることが読み手にもわかるように記述され、それらの先行研究と当該論文等の関係が明確であり、その先行研究の内容と当該論文等との関係を踏まえた当該論文等で明らかにしようとする仮説が明確に記述されていることをいう。
⑤事例またはデータの定量的あるいは定性的分析の信頼性とは、設定仮説の論証において適切な研究方法が用いられ、確かな資料やデータに基づいて行われていることをいう。特に 「 学術 論文」 では、論証に用いた資料やデータの蓄積が十分であり、信頼できる調査研究方法及び出典や提供元から得られたもので、緻密に論証されていることが求められる。
⑥理論化(モデル化)の試み⑥理論化(モデル化)の試みとは、当該論文等が特定の事例に基づいた論証や観察にとどまらず、同様の事例に普遍的に適用できる程度に理論が構築されていることをいう。
⑦政策的インプリケーションとは、論文等の内容が地域活性化に関する学術的あるいは実用的 もしくは政策的な見地から 、重要な知見を提供していて実務に取り入れられる価値があり有用であると認められることをいう。
・実務研究論文
審査項目は以下の8 つとする。
① 主旨の適合性
② 課題と 目的
③ 実現(解決)手段
④ 実行プロセス
⑤ 結 果・成果
⑥ 分析・考察
⑦ 社会的・実務的効果と有用性
⑧ 政策的イン プリケーション
①主旨の適合性とは、論文等の主たる内容が「地域活性研究」の研究領域に関して、学術的あるいは実用的もしくは政策的な見地から、どのような関連性を有しているかについて明確に示されているかどうかをいう。
②課題と目的とは、論文等が扱う題材、又は取り組みを行う課題 、 及び 研究の 目的 について明確に示されているかどうかをいう。 研究の背景や動機等、論文の意義や位置づけについての理解にとって不可欠な内容が含まれているかどうかをいう。
③実現(解決)手段 とは、 課題解決や目的達成等のために行った取り組みや施策等について、客観的に明瞭かつ詳細に記述されているかどうかをいう。どのような考えや仮定に基づいて取り組みや施策等が考案され、どのような主体者や関係者等が参加しているのか等、研究を実施するための準備や体制等が明確かつ整理されて記述されているかどうかをいう。
④実行プロセス とは、 取り組みや施策等 の実施に関する詳細かつ明確な説明がなされているかどうかをいい、 そ の手順や方法が 読み手にもわかるように記述され、 読み手がその手順や方法を誤解や錯誤なく再現でき、正しく検証可能なように記述されているかどうかをいう。
⑤結果・成果 とは、 取り組みや施策等の実施によって、課題がどの程度解決されたのか、目的がどの程度達成されたのか、地域社会にどのような変化が生じたのかについて、整理されて記述されているかどうかをいう。
⑥分析・考察とは、取り組み や施策等の実施 によって得られた知見やデータのことをいう。研究の目的に沿った形式で記述されることが望ましく、課題解決のための手法、得られたデータの開示並びに分析結果、目的達成のために必要な対応策や実施体制等の多様な形式が考えられ、読み手が研究によって得られた知見を理解し、検証し、活用するために十分な情報が記述されている かどうかをいう。
⑦社会的・実務的効果と有用性 とは、 取り組みや施策等を実施した 結果や成果が、実社会や実使用等の場において、現実的にどのように役立つのか、又は役立つと考えられるのかについて開示され、説明されて いるかどうかをいう。 社会的・実務的効果は、研究のよって得られた知 見等を適用することで現実的に現れる変化又は変化の可能性のことであり、有用性とはその変化がもたらす、又はもたらしうる望ましい効果 のことである。これらが、読者に明示され、利活用可能な形で開示されているかどうかをいう。
⑧政策的インプリケーション とは、論文等の内容が地域活性化に関する学術的あるいは実用的もしくは政策的な見地から 、重要な知見を提供していて実務に取り入れられる価値があり有用であると認められることをいう。学術研究ノートの審査基準は学術研究論文の審査基準を準用し、事例 報告 は実務研究論文を準用する。ただし、学術研究ノートにおいては、 論考の深耕度合いや一般性・普遍性を学術研究 論文のレベル程度には求めず、研究萌芽段階にあることを考慮するものとする。事
例報告においては、個々の事象や取り組み等の詳細な記述を主体に構成されていることを考慮し、研究論文 に求められる詳しい分析、考察は求めない。
(2)新規性・独自性(本誌が重視する事項)
学会が発行する論文誌は、当該学会 の存立趣旨や活動方針に従って企画編集され発行されるのが通例である。会則に謳う「 地域活性化に関する学際的研究 」を推進する ためには、多様な学問分野が融合する研究を促進することが必要であり、審査に当たってもその方針は堅持されなければならない。こうした学際的融合分野は既存の学問分野の研究経緯や流派等に縛られることなく、多様な分野の多様な思考や価値観を取り入れた自由闊達な議論から新たな知見や成果が得られるものと考えられる。もう一 つ 、会則に謳う「 地域活性化を担う人財 を育成し協力体制(ネットワーク)を構築 」するためには、実務家も含めた当事者の活動について議論し、切磋琢磨していく必要がある。こうした実務家のための 研鑽の場の提供も本誌の重要な役割であり、学術研究と実務研究が融合する場ともなる。そして、これらが合わさって「地域活性化に関する政策提言 」が生まれるものと言えよう。こうした多様な学術分野の融合、並びに学術と実務の融合を担う論文誌としては、既存の学問的枠組み(フレームワーク)を当てはめることは不適切であると考え、(1)必須条件
に示した事項を満たす限りにおいては、 新規性や独自性を重視し、既存研究等との不整合や反論・反証の可能性に躊躇することなく掲載を進めるべきであると考える。本誌が、発展途上の学際融合及び実務と学術 の融合 分野を扱う論文誌であることから、形式的な項目を示すのではなく、 審査 に当たっての評価・判断の 指針を 示すこととする。
(1)新たな 仮説や 試論等が提示されていること
(2) 新たな仮説や試論等を用いて、実務的試みを行っていること
(3) 既存の事例を新たな観点で分析し、新たな解釈を導いていること
(4) 既存の理論等を新たな観点から実務的に応用していること
(5) 新たなステークホルダーの発掘や参画による課題解決を図っていること
(6) 独自の経験則や暗黙知を基にした取り組みであること
査読の目的は、第 1 に会員の研究・実務活動を促進し、その質を高めることにある。会員の意欲を低下させ、あるいは活動を不要に妨げるものであってはならない。
第2に、社会に貢献する可能性 を持つ 情報を、世に 送り出す ことにある。 多くの 偉大な学問的発見も 、発表時には未解明な要素を含み、論拠・エビデンス も乏しい仮説だ ったが 、後の研究者が検証や精緻化に取り組 み 、歴史に残る理論として評価されるに至ったものである 。 論文の真の評価は社会が決めることを忘れてはならない。従って、上記の内容を含むものであれば、多少の理論的未熟さや議論の甘さ、未解明な要素や論拠・エビデンス の乏しさ等について厳密に評価することは避け 、そうした 未熟な点も併呑する姿勢 が肝要である。そうした点は、掲載後の読者による議論と研究の発展に繋がることを期待し、本誌はそうした 研究の発展の場を提供し、機会となる ことを目指すものである。