想像以上にエキサイティング

穴田 学(信州大学リサーチフェロー)

信州100年企業創出プログラムの客員研究員になる

私が、“三ガク都”(学都・楽都・岳都)の別名を持つ美しい街、長野県松本市にきてから一年が過ぎました。きっかけは、信州大学が運営する『信州100年企業創出プログラム』の第4期(2021年10月~2022年3月)客員研究員への参加が決まったことでした。

人生後半戦の挑戦を求めて

28年半勤めた鉄鋼メーカーでは、主に海外営業畑でキャリアを積み、退職直前は、鉄鋼貿易を巡る諸問題を扱う仕事をしていました。仕事は楽しかったものの、会社員生活を続けることに倦怠感と閉塞感を感じていました。このプログラムに出会ったのは、次なる挑戦を考えつつ、コロナもあってモラトリアム生活を送っていた時でした。元々アカデミズムや研究生活には憧れがあり、「人生後半戦は自由の多い生き方を」と考えていた私にとって、地方企業でこれまでの実務経験を活かしつつ、大学で研究活動もできるこのプログラムは、理想的な機会でした。

週四日間は松本市の企業で勤務し、隔週金曜日に信州大学・松本キャンパスで行われるゼミで自分が選定した研究テーマに取り組む日々は、想像以上にエキサイティングでした。信州の空気感もすっかり気に入り、2022年3月の最終発表を以て活動が終了した後も、マッチング先企業に契約延長してもらい、妻と息子を神奈川県横浜市の自宅に残して、松本での単身赴任生活を継続することに決めました。

信州100年企業創出プログラム  https://shinshu-100y.shinshu-u.ac.jp/about

 

実務家に研究者への道を開こうという試みは野心的

地域活性学会は、プログラムの先輩研究員の方から教えて頂きました。実務家研究者(JK)の養成に力を入れていることを知り、興味を持ちました。というのも、私自身がビジネスの現場で鍛えられてきた人間だからです。学術的な研究手法や論文作成術には通じていなくても、語るべき経験とスキルを有する実務家に研究者への道を開こう、という試みは野心的です。

私は仕事を、「目標や目的に対して、なんとかする(=manage)こと」と捉えています。たとえ、隙のないビジネスプランを作り、優れた人材を集め、精緻なオペレーションマニュアルを組み込んで運営しても、期待通りに実践できるとは限りません。ビジネスの現場では、予期せぬトラブルが起こり、その修正と調整作業の繰り返しです。関係する人々の感情や建前やメンツがぶつかり合い、合理的に物事が進まないのも常です。そんな中、どんな事態に見舞われようと、あらゆる手を使って「なんとかする」のが実務家の役目であり、真骨頂です。私は、理論家や評論家ではなく、最低限の結果を常に出せる、ダメージを最小限にできる、時には汚れ役として犠牲になる、といった実践者の役割を組織から求められ続けてきた人間です。この経験をベースに何らか理論を構築していきたい、という野心もあります。

今後は、信州大学リサーチ・フェロー(2023年3月まで)の立場も活用し、自分の経験と知見をベースに、適切な言語化・理論化ができる実務家研究者(JK)を目指していきたいと考えています。

Writer:穴田 学(信州大学リサーチフェロー)