このたび、昨年9月に共著で出版した『コミュニティ・デザイン新論』(さいはて社)が日本NPO学会より「第23回日本NPO学会 学会賞 優秀賞」を受賞しましたので、これを機に改めてその内容を紹介させていただきます。本書は、3部構成となっており、第1部は共生社会の包摂と平等、第2部はむら・まちの持続と縮退、第3部は共同性・公共性の創造をテーマにしています。共生、縮退、公共性といったキーワードを手掛かりに、コミュニティをどのように「再デザイン」していくか、学際的・実践的議論を豊かに展開しています。現代社会の困難は、その困難に取り組むことによって希望が見えてくる、そして社会を公正なものにしていくという信念にもとづき、研究者・実践者、計15名が執筆しています(大和田順子)。
多岐にわたる専門・フィールド
関西の大学に籍を置く研究者の専門は、政策科学、社会学、減災・人間科学、建築・都市計画学、事業構想学など多岐にわたり、コミュニティの研究フィールドやタイプも多様です。在日コリアンの集住地域(京都市内、神戸市長田区)、震災被災地(能登半島、新潟県小千谷市塩谷集落、福島県双葉郡楢葉町)、農村(世界農業遺産認定地域である和歌山県みなべ町)、京都市中心部(町家、町(ちょう)・元学区)、大阪市内(上町台地)、岡山県瀬戸内市牛窓(港町)と、関西を中心にしつつ広範囲です。
むらの尊厳ある縮退
第2部むら・まちの持続/縮退はいかにして可能か?では、第4章にて渥美公秀が集落の「尊厳ある縮退」について論じています。渥美は地域コミュニティの内発的価値と関係性を尊重する新たな縮退モデルとして、「新しいコミュニティ・デザインを推進していくためには、集落ソーシャルワーカーを養成し、民衆的アプローチをとる研究者がそこに関わっていくという姿」が必要だとし、ご自身が立ち上げた「尊厳ある縮退同好会」を紹介していています。
尊厳ある縮退同好会https://sites.google.com/view/shrinking-lab/
集落の価値を高め磨くツール
共著者の一人である私は、第2部6章「集落の価値を高め磨くツール」を担当しました。「世界農業遺産」(FAO:国連食糧農業機関)および「SDGs未来都市」(内閣府)という国内外の制度を活用した、持続可能な地域の構築プロセスと具体的な計画について紹介しました。まず、「世界農業遺産」ですが、地域固有の農林水産業、農業生物多様性、伝統的知恵、生活文化、景観といった地域資源について、農業遺産の基準により再定義・再評価し、地域価値システムとして可視化することができます。さらに、その可視化した地域価値システムを元に「SDGs未来都市」のフレームワークにより、環境・社会・経済の三側面における課題と対策、そして統合策を検討するというプロセスです。事例として、2015年に世界農業遺産に認定された和歌山県みなべ町を取り上げ、その「SDGs未来都市」ならびに「自治体SDGsモデル事業」(2024年度選定)の計画策定プロセスについて記述しています。
トランスフォーマティブ・コンピテンシー
みなべ町の「自治体SDGsモデル事業」は、「日本一の梅の里・みなべ町から人・地域・地球の真のウェルビーイングを創生」というタイトルです。町民と役場職員が協働で自ら地域の課題を探究し、解決策を検討する学びの機会「みなべ梅ラーニングコモンズ」の開設、梅剪定枝を活用したバイオ炭の取組、デジタル庁が設定した「地域幸福度(ウェルビーイング指標)」を活用した町民幸福度の現状把握とその活用といった内容です。ラーニングコモンズは、「OECDラーニングコンパス2030」を元に着想し、梅の健康機能、ミツバチと生物多様性、バイオ炭など農的資源を多面的に捉えたテーマを設定し、 持続可能な社会への変革を推進する能力(トランスフォーマティブ・コンピテンシー)を有した人材の育成および共創型コミュニティ・デザイン”を指向しています。

図:みなべ町SDGs未来都市「自治体SDGsモデル事業」
ウェルビーイング指標https://well-being.digital.go.jp/dashboard/
日本一の梅の里・みなべ町から人・地域・地球の真のウェルビーイングを創生https://www.town.minabe.lg.jp/tyousei/12/2024-0722-1003-1.html
以上『コミュニティ・デザイン新論』は、共生、縮退、公共性といったキーワードを手掛かりに、コミュニティをどのように「再デザイン」していくか、その学際的・実践的議論を豊かに展開しています。これからのコミュニティ・デザインに関心をお持ちの自治体・NPO・研究者の皆様にぜひ手に取っていただきたい一冊です。
新川達郎監修、川中大輔・山口洋典・弘本由香里編『コミュニティ・デザイン新論』(さいはて社)

写真:本の表紙