【日本看護科学学会】ウェルビーイング・デザインによる新しい幸せのかたち報告(石原美和)

日本看護科学学会 第44回日本看護科学学会学術集会:教育講演1ウェルビーイング・デザインによる新しい幸せのかたち~ケア専門職がひととひとの心をつなぐソーシャルイノベーション~、座長:石原美和(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉研究科)、2024年12月7日(土) 10:00 〜 11:30 第1会場 (熊本城ホール4F メインホール)

保井俊之地域活性学会副会長(左)、石原美和地域活性学会本部理事

保井俊之:1985年東京大学卒、財務省及び金融庁等の主要ポストを経て、官民ファンドREVIC常務取締役、国際金融機関IDBの日本ほか5か国代表理事等を歴任。2021年に開学した広島県公立大学法人・叡啓大学の唯一の学部の初代学部長・教授に就任。2001年9月11日の米国同時多発テロに、出張中のニューヨークのワールドセンターで遭遇し、その後、PTSDで苦しんだ経験を原点に、国家公務員からウェルビーイングの研究者へと転身。国際基督教大学より博士号(学術)。米国PMI認定PMP、地域活性学会副会長、ウェルビーイング学会監事兼学会誌編集委員長、日本創造学会評議員。日本ポジティブサイコロジー医学会評議員。広島県生涯学習審議会委員。

ウェルビーイング・デザインによる新しい幸せのかたち、保井俊之 (叡啓大学ソーシャルシステムデザイン学部)

【抄録】
本講演では、看護職をはじめとするケア専門職が地域コミュニティなどの現場で、ひととひと、ひとと自然をつなげ、コミュニティや社会の不全や課題を解決し、よい状態すなわちウェルビーイングへ変えていくアプローチを拓く可能性について論じる。ウェルビーイングとは、自分の人生に対する評価であり、良好な心の状態を指す。 WHO は、健康を身体的、精神的及び社会的にすべてが満たされた状態(ウェルビーイング)と定義している。すなわちウェルビーイングとは、人生におけるハツラツ(身体的)、ウキウキ (精神的)、イキイキ (社会的) な心の良いあり方であり、幸せのかたちである。それは短期的なうれしい感情を主に指すハピネスを超えて、人生経験の長期的な評価まで含む。ウェルビーイングはこれまで、個人の心的状態を中心に研究されてきた。しかし OECDが2013年に、教育の価値を学生たちのウェルビーイング獲得の支援に置き、 WHOが2021年に、持続可能なウェルビーイング社会の創造が急務と宣言するなど、地域や社会のウェルビーイング実現を社会全体の目標に掲げる動きがこのところ加速している。近年、ウェルビーイングを社会でデザインすること、すなわち地域に新しい幸せのかたちをもたらすことに、看護職をはじめケア専門職が関与することが期待されるようになっている。心の幸せ、すなわち主観的ウェルビーイング向上の大きな要素として、ひととひとのつながり、ひとと自然のつながり、地域愛着、場にいること、自己実現と成長などが挙げられる。これらの要素はまさにケアの本質である。メイヤロフ『ケアの本質』によれば、ケアとは、この世界でひとが「場の中にいる」ことを可能とし、相手が成長し、自己実現することをたすける、人への関与のあり方だからである。ケア専門職の活動は、医療現場での専門スキルの発揮と患者の QOL向上に専心する従来のアプローチから、地域や組織外に活動を広げ、ひととひと、ひとと自然をつなぎケアを届けることで、ソーシャルイノベーションすなわち社会を前向きに変え、そこに暮らすひとたちのウェルビーイングを実現するアプローチへと広がっている。本講演では、地域で新たにウェルビーイングを実現しようとするケア専門職の事例を複数紹介しつつ、ウェルビーイングの基礎について平易に理解し、ケア専門職が創造する新たな地域の幸せのかたちについて、フロアとの対話も含め、会場で議論を深める。