【地域活性学】地域活性学の確立に向けた3つの重要な枠組み

御園愼一郎

御園会長が会長就任当初に提示したことは、論文改革、顔の見える学会、地域活性学の確立でした。先日、地域活性学とは何かのキックオフミーティングが行われました。まずは少人数からスタートしました。徐々に全会員が意識して議論できるプラットフォームを作りたいとの思いが御園会長にあります。会議当日に、那須副会長が3つの重要な枠組みを示しました。この枠組みをもとに筆者が思うことを書いてみました(斉藤)。

地域活性学の確立に向けた3つの重要な枠組み

資料:那須清吾 注釈)実務家=実務家研究者(JK)

論文改革、顔の見える学会、地域活性学の確立はつながっている

資料:地域活性研究の論文区分(地域活性学会)https://chiiki-kassei-jk.com/archives/2709

協働

地域活性学とは何かの会議の冒頭で那須副会長が提示した3つの枠組みから考えてみます。地域活性学会は学術研究論文と実務研究論文の2つに区分しました。おそらく、地域活性化の現場から生まれる現象の理論化には賞味期限があります。2003年当時、お店が遠くて、買い物に苦労する買い物難民といわれるおばあさんは、今はいません。20年後の今のおばあさんは、みな運転免許を持っているからです。時代に即応した現場からのタイムリーな報告が、実務家研究者の事例報告です。地域活性化の現場は、計画通りに粛々とやるのであれば、それはうまくいきません。むしろ計画通りに行かないのが常です。だから創発が生まれます。瓢箪から駒、怪我の功名、思惑倒れの現象が起きて新しい領域に入ることができます。ここで生まれた現象や情報は新しい問題意識が含まれるため重要です。一方、地域の現場で起きる現象はなぜ起きるのか、なぜその現象を解決する必要があるのか、創発はどうして起きるのかといった普遍性を伴うものの構造化は学問的な知見の下、理論化されます。これは学術研究論文の領域で、研究者の役割です。実務家研究者と研究者は協働することによって、地域活性化の提案や政策化は迅速化し、地域社会に貢献します。両者の協働により、新たな領域を切り開くことができます。

体系

研究者は、地域活性化を個々の学術分野の切り口で理論化・進化することが重要と那須先生は提言しています。私が具体的に思い浮かぶ研究者とは、小さい時から知っている藤本隆宏東京大学名誉教授です。彼のおじいさんとお父さんを知っています。おじいさんは日本ではじめて自動車レース(サーキット)を日本に持ち込んだ人で、お父さんも自動車関連の輸送会社を経営されていました。だから藤本先生が自動車産業を研究対象としているのは至極当然で、納得できます。まさに研究対象(=個々の学術分野の切り口)は個人に帰するものです。しかし藤本先生は先行研究に熟知しているにも関わらずそこには言及しておらず、世界の自動車産業の競争力について自身の調査を積み上げ、その結果をもとに「能力構築競争」を著しました。これは研究者藤本隆宏の「体系」となりました。一方、実務家研究者は、個々の学術分野の理論を学び、組み合わせることで自身の事業を創造してこそ、成功の可能性が増すと那須先生は示唆しています。確かに実務家研究者は、藤本先生のように、最初から自分自身の調査を積み上げ一から理論化することに重きを置いていません。地域で起きる現象の多くは先行研究で立証できるため、現象の立証を先行研究の組合せで代替することができます。しかし、実務家研究者は地域活性化の現場にいるので、先行する研究者の理論の隙間までより詳細に理論化できます。こうして実務家研究者は創発が起こるのを待たずに、新しい領域に入り込むことが可能です。そして体系は新規性を持つといえるのです。この新規性こそ、新たな価値であり、競争力です。実務家研究者は、新規性のある体系を獲得し、自らが起こす事業創造を成功に導くことができると言えるのではないでしょうか。

60年前の斉藤俊幸(写真中央)と藤本隆宏(右側)

活用

この新規性がある体系を出発点に研究者は、地域活性化の実務に活かせる理論化・進化を果たすことができます。藤本隆宏先生は自身が構築した理論を活用し、実に多くの本を出版しました。これは、理論化・進化の証であり、これにより、日本の自動車産業のみならずものづくり産業全般に対して、より大きく貢献していると思います。実務家研究者が得る自らが起こす事業創造を成功に導くというゴールとは対照的な姿といえます。また那須先生は、実務家研究者は、事例から学ぶのではなく、理論に自分の変数を当てはめてカスタマイズし、成功パターンを創造できると言っています。筆者が地域活性化の研究テーマとして畜産業を選んだのは、国の政策において、農村集落は撤退か、むらおさめが主流となりつつある現在、地域ビジネスによる集落維持という選択肢もあるのではないかという主張があったからです。この主張を確かなものにするため、博士論文において、土地利用型畜産により集落維持ができることを立証し、実際の地域の現場でこの理論を活用しようと考えました。また、土地利用型畜産のみならず、土地利用型農業への関心もあります。つまり、那須先生がいう通り、構築した理論に自分の変数を当てはめてカスタマイズできると考えています。畜産だけではなく、土地利用型農業の範疇に入るコメや大豆等の地域ビジネスを対象として理論を活用し、集落維持の方法が提示ができるのではないかと考えています。研究者の理論は、より理論化が進み、誰もが正しいと思う理論へと進化し、新たな先行研究の道標として後進の研究者や実務家研究者に活用されます。一方、実務家研究者の理論は、成功パターンとして地域に住む人たちに活用されるということです。

地域活性学とは何か

地域活性学とは何か。これは人それぞれに帰するものです。しかし、そこには他者との協働があり、体系による理論化があり、活用を伴うものだとの那須先生の示唆は実に深いです。特に活用という言葉が入るのは、地域活性化という学問が、疲弊した地域を抱えているという特殊事情によるものと思います。ここからスタートです。地域活性化はその時代が生む問題や課題に対応する必要があるため、タイムリーという時間性や迅速性が含まれます。プラットフォームでは様々な議論が行われるべきです。時には異なった意見も出ます。しかし、それはかえってよいことです。地域活性学会がつくるプラットフォームから大きな流れが生まれてゆく。このためには、プラットフォーム自体が問題提起を続けてゆくこと、アカデミズムがその問題提起に対して高い見識をもって答えてゆくことが重要であると考えています。>と斉藤は考えちゃったわけよ。知らんけど。みなさまのご意見をお待ちします。

キックオフミーティングの様子

地域活性学に関するご意見をお待ちします。

Writer:斉藤俊幸