次代を担う若者たちへ地方で生きる大人の背中を見せたい

都留文科大学教養学部地域社会学科准教授 鈴木健大(左端)(2021年7月撮影)

経験者採用枠受験を通じて公務員へ

都留文科大学教養学部地域社会学科准教授の鈴木健大と申します。私は大学院修士課程修了後は、一級建築士の技術職として、タワーマンションを含む大規模都市開発の仕事をしていました。当時珍しかった駅前無認可保育園を誘致したことが評判となり、これからのまちづくりは“人づくり”ではないかと考え、担当した再開発が完成したタイミングで、当時はまだ東京都庁と川崎市役所しか実施していなかった経験者採用枠の職員採用試験を受験し、2003年川崎市役所に入庁することになりました。ちょうどその頃は地方分権一括法が施行されたばかり、自治体に企画部門が設置され、「地域のことは地域で」といった自治の強化が自治基本条例をはじめとした制度設計とともに急速に模索され始めた始めた頃です。私は保健所に1年間配属になった後、区役所初の企画課に配属となり、広報・広聴、協働のまちづくり、総合計画の策定等に携わり、その後は教育委員会でコミュニティスクール、総合企画局でPPP等を担当しました。

地方公務員と大学院博士課程

民間からの転職が珍しかったのか、川崎市では企画に関する仕事を多く担当させていただきました。しかし、政策を立案し続けていくには限界も感じており、当時の課の部下が夜間大学に通学していたことに影響を受けて、大学院博士課程への進学を決意します。残業、土日出勤も続いており、職場に近い慶應義塾大学日吉キャンパスに新設の大学院ができるということで、2008年迷わず門を叩きました。指導教官は、メディアデザイン研究科大川恵子教授。「Global Education」と名付けた異国の子どもたち同士で社会問題の解決を考えるプログラムを研究されています。皆既日食の日に世界の子どもたちをインターネットでつないで宇宙の学習をしたり、日本と海外の高校生たちで環境問題の解決策を考えたり、日常の業務では得られない刺激的な時間と空間がそこにはありました。研究室のプロジェクトと並行しながら、自身の博士論文には「地域活性化への地方公務員の関わり方」といったテーマを選び、元住吉の商店街活性化に取り組んでいました。

世界の子どもたちとインターネットでつないで宇宙の神秘を学ぶ「GLOBAL KIDS ECLIPSE 2009」プロジェクト。8カ国13学校約500人の子どもたちが参加した。前列右端は、村井純慶應義塾大学教授。(2009年7月撮影)

博士論文のテーマは、モトスミ・オズ通り商店街(川崎市)での実践活動をケーススタディに、これからの地方公務員のあり方を考察した。東日本大震災を踏まえ「安全・安心」をテーマに「一店一安心運動」「商店街避難訓練」「まちなか防災教室」等のまちづくりで、内閣府特命担当大臣表彰、総務省消防庁「第20回防災まちづくり大賞」等受賞。(2012年2月撮影)

次代を担う世代との「半学半教」

そんな中、2011年に東日本大震災が起きます。私は避難所運営のボランティアをしながら、広域避難の子どもたちに向けた学習支援を大学生たちと始めました。これは震災から12年経つ現在も続いており、これまで累計120人を超える子どもたちが通っています。この活動は私に、東北の復興も過疎化が進む地方にも必要なのは“人づくり”ではないかと、使命感を強くさせました。そして、この震災は、人生は一度きりしかないことも私に突き付けました。公務員の仕事と大学院とボランティアがまわらなくなった私は、公務員をやめることにしました。貯金を取り崩して生活しながら、博士論文を書き上げました。行政の付属機関や香川大学でポスドクの期間を経た後、偶然にも故郷のある山梨県の現在の大学に勤務することとなりました。現在は、地域再生や地方自治に関する講義を担当しながら、道志村や上野原市秋山といった過疎地をフィールドにした地域再生のプロジェクトや地元鉄道会社と連携した観光づくり、NGO活動などに学生たちと取り組んでいます。若い頃には思いもよらなかった人生を歩むことになりましたが、悔いはありません。学生たちに地方で生きる大人たちの背中を見てもらって、地方にも豊かな人生の選択肢があることを示したい。私も地域や学生たちから日々学ぶことが多く、福沢諭吉が唱えた「半学半教」の日々を送っているところです。学ぶことはとても尊い行為だと思います。仕事をされながら学び続けられている皆様にエールを送ります。

富士急行線の無人駅「谷村町駅」の旧宿直室をリノベーションして2018年から実施している、子どもたちの放課後の居場所づくり「ぷらっとはうす」。(2019年4月撮影)

上野原市と連携した同市秋山地区(旧秋山村)活性化ゼミ。地区の特産品である東京長かぶを使ったジェラートを秋山温泉で試作販売した。(2021年11月撮影)

Writer:都留文科大学教養学部地域社会学科准教授 鈴木健大