都市との連携をいかした6次産業化による地域活性

関東学園大学 経済学部教授 中村正明

今、地方は少子高齢化等により1次産業や地場産業が厳しい現状に直面しながらも、各地域では、地域資源を見つめ磨き上げ、新たな価値を創造する持続可能なまちづくりに力を注いでいる。一方、東京一極集中の課題を抱える都市では、コロナの影響もあり地方への関心が高まるとともに、テレワーク・副業・兼業等、働き方が多様化し、ライフスタイルが大きく変化してきている。このような中で、本稿では私が取り組んできた地域活性プロジェクトの中で、6次産業化視点を取入れた都市と地域がつながる事例をもとに、6次産業化による地域の活性化の可能性について論じてみたい。

都市のオフィスワーカーとの連携

「丸の内プラチナ大学/アグリ・フードビジネスコース」今期で8期目(2016年スタート)を迎える社会人教育プログラムの「丸の内プラチナ大学」(主催: エコッツェリア協会/会場:3×3Lab Future 東京都千代田区大手町)は、座学による理論構築やケーススタディ、フィールドワーク等を、様々な世代が交流しながら実践的に学ぶプログラムとなっている。講座を通じて創造性を高め、人や地域とつながりながら、身近で具体的な社会課題等の解決策を見出すための新たなアイデアを創出するプロセスを学ぶことが特徴である。私は、丸の内プラチナ大学が本格スタートする前年の0期の試験的な開講より、アグリ・フードビジネスコース(当時は、農業ビジネスコース)の講師兼コーディネーターを務めている。本コースは、毎回生産者や生産地にスポットを当て、その生産者や関係者を講座のゲストに招き、第一部でその魅力的な取組みや想い、現状の課題等について講座を行う。その上で、第二部では、受講者によるワークショップを行い、生産者の魅力や生産地の地域資源をいかした課題解決策について、都市のオフィスワーカー目線で議論を深め、グループごとに発表を行う。その後の交流会では、より具体的なソーシャルビジネスの種が飛び交い、受講者それぞれが所属する都市の企業との関連性に可能性が見出され、さらに個人がもつスキルやノウハウをいかした生産者や生産地の課題解決(都市ニーズを捉えた6次産業化商品の開発や販路開拓、ブランディング等)へとつながった。また、フィールドワークをきっかけに生産者を訪ねる体験・交流型のフードツーリズムになるなど、6次産業化視点で都市との継続的なつながりが生まれたのである。たとえば、2021年度(6期)では、「小豆島の豊かな食と農をいかした6次産業化による地域活性」をテーマとして開講し、講師として自治体からは小豆島・土庄町長による地域の魅力と課題、移住者で現代アート作家による小豆島の地域資源とアート、農業法人による小豆島の第1次産業の魅力と課題、観光事業者による小豆島の観光資源と課題等について各回ゲストによるトークとワークショップを行い、最終回でソーシャルビジネスプランの発表を行った。終了後、何名もの方が小豆島を訪ね、現地のゲスト講師や関係者との交流を楽しんでいる。中には、現在も会社ぐるみで現地との交流を重ね、小豆島の地域資源を活用したソーシャルビジネスの検討を重ねるなど、関係人口の増加にもつながっている。

大学がコーディネートする6次産業化プラットフォーム

「太田6次産業化Lab/おおた自慢づくりプロジェクト」私が教鞭をとる関東学園大学のある群馬県太田市は、スバルの本拠地として全国有数の製造業の町であるとともに、群馬県内3本の指に入る農業地域でもある。関東学園大学は経済学部の単科大学であるが、「経済学×農業」に力を入れ、座学はもちろんのことだが学内のスマート農業施設や周辺エリアの生産者との連携により、農業の実践的な学びも取り入れた教育と研究を行っている。太田市の現状をみると、群馬県内の一大生産地でありながら食と農に関わる人たちのつながりや、消費者(住民)と生産者のつながりが希薄である。また、魅力ある観光資源がありながら観光まちづくりが推進されていないことが課題であると捉え、関東学園大学の地方創生研究所がコーディネーターとなり、独自の6次産業化による課題解決のプラットフォーム「太田6次産業化Lab」を、太田行政県税事務所の支援のもと、2022年4月に立ち上げた。太田6次産業化Labでは、地産地消の推進・地域ブランドの創出・フードツーリズムによる観光振興をテーマに掲げ、地域の食と農に関わる人がつながり、6次産業化による地域課題の解決とソーシャルビジネスの創出により地域活性を目指している。具体的には、太田市が関東のさつまいもの発祥の地という歴史的ストーリーをいかし、さつまいもの栽培から商品開発、フードツーリズムに取り組む「OTA自慢づくりプロジェクト」がスタートしている。現在、2年目であるが、生産者・飲食店・物販店・NPOや、サポーターとして群馬県・太田市・太田商工会議所・太田市新田商工会・太田市観光物産協会・JA太田市・JAにったみどり、地元高校として大泉高校・新田暁高校・舘林商工高校等によ る官民共創コミュニティづくりを進めている。

都市との連携においては、今年度スタートした「太田さつまいもフードツーリズム」のモニターツアーに、都市の食に関心のあるオフィスワーカーや食のプロフェッショナルが参加している。さらに11月には同様のメンバーを招き、さつまいも収穫体験プログラムを核とした1泊2日のフードツーリズムを行い、モデルツーリズムの考案を目指している。

産学官連携による都市と地域のつながり

「小豆島マルシェ」から見える6次産業化による地域活性。島嶼地域は、豊かな地域資源に恵まれ、我が国にとって自然・文化・地理的特性からも重要な地域である。しかしながら、少子高齢化や第1次産業の衰退等、課題先進地域と言えるであろう。オリーブの産地としても有名な香川県小豆島も例外ではなく、人口減少をはじめ1次産業や地場産業の衰退等と多くの課題に直面している。昨年から、小豆島(土庄町)と東京(港区)との連携でスタートした「小豆島マルシェ」は、東京農業大学のフィールドスタディで小豆島に学生が訪れ、地域資源を発掘しマップ化した。さらに、学生自らが小豆島の食資源をいかしたメニューを考案し、パートナー企業のシェフが調理方法の指導から、メニューのブラッシュアップをサポートし、東京(港区)での「小豆島マルシェ」の会場で、学生達が販売した。フィールドスタディをきっかけに、夏休み中にはパートナー企業のホテルや農園にてインターンシップを行い、現地での学びをさらに深めている。この「小豆島マルシェ」では、都市の消費者へのアンケートを実施・分析し、都市とのつながりをいかした6次産業化視点で、小豆島の1次産業等の課題解決策を検討しながら、地域活性化に取り組んでいる。

まとめ

本稿での事例から、地域の自然資源をいかした活性化には、都市目線をいかし、都市のニーズを捉えた6次産業化商品やサービスの開発が有効であると考える。特に、1次産業の課題解決を踏まえた6次産業化視点による体験・交流型のプログラムづくりが、関係人口の創出や地域ブランド創造につながるであろう。また、地域や都市の多岐にわたる様々な課題解決のためには、産学官それぞれの強みをいかし、都市との連携による独自のプラットフォームの構築が重要である。こうした実践に大学が連携することで、学内だけでは出来ない学生の教育の充実が図られるとともに、研究者が関わることで継続的な調査・分析等による地域課題の解決策の提示や人材育成、“知”のネットワークの活用などの可能性が広がるであろう。食(自然資源)をいかして地域活性を考えるには、地域課題の解決と地域経済の活性化を都市とのつながりをいかした産学官連携によるプラットフォームの構築と、6次産業化視点でソーシャルビジネスをデザインすることが、持続可能なまちづくりにつながるであろう。

 

地域活性学会 第15回研究大会にて発表予定

9月2日(土)10:00~12:10 セッションB B-3-3、中村正明 関東学園大学「島嶼地域における産学官連携による地域活性化研究 -小豆島マルシェを事例として-」